何をやってんだ、俺は…。
コイツのことをを見れば見るほど、
コイツのことを考えれば考えるほど。
酷く安定をぐらつかせる。
「ねぇ、アルヴィン。」
「ん?どうしたの、ニコラちゃん。」
「時々さ、思い詰めたような顔するの、なんで?」
普段とぼけたような様子しておきながら、時々核心に触れるから困ったもの。
今がメガネをかけているからなのか?
いつもののほほんとした表情とは、違う風に見えた。
「…そう、見えた?」
「たまーに、ね。私なんかで生活出来るか心配になった?」
いや、彼女に罪はない。それは俺自身が一番分かっている。
だが、そうやって感情に敏感で気になるからか手当たり触れる彼女を見てイラつかせる。
罪はない。わかっている。
「もし、さ。つらいことあったら言ってよ。私でなるなら助けるしさ。」
ニコラの言葉に罪はない。ニコラの精神に罪はない。
だが、その言葉や考え方は俺からすれば罪だ。
「だったら…。」
「?」
「俺に構うな、と言ってもか?」
恐らく、敵意や殺意をにじませて低い声で言うのは初めてだろう。
コレに怯えてこのまま離れてくれることを祈る。
銃は向けない。
同情も少なからず入っているのだろうけど、それはあくまで最終通告だ。
「それは、ダメ。」
「!」
あっさり否定する。だが、それが益々俺をイラつかせた。
頼むから、消えてくれ。そんなまっすぐな目で見ないでくれ。
「これでもか。」
「…触れて欲しくないの?私が目障りで撃ちたければ撃てばいいじゃない。」
これほどまでに強い瞳を見たのは初めてだと思ったくらい。
銃を向けて彼女は丸腰なのに、引き金をかけた指が全く動かなかった。
「撃てないなら構うななんて云わないで。
そいつはひとりの女の脅しの道具にするには荷が重過ぎるよ。」
瞬時に右足を浮かせ彼女は拳銃を手に取る。
弾は既に入っていたらしく、俺の横で銃弾が走る。
危険を感じて反射で撃とうとしたが、的確な位置で銃が弾き飛ばされる。
びりびりと強い痺れを感じる中で、そのときに漸く気付いた。
銃を向けたときの目が、酷く冷たい。情が入っていないとかそんなんじゃない。
明らかに“何かを決して”の目だった。
何が、“勝ち目がないから勝負は受けない”だ。
コイツは正真正銘のプロ同然じゃねーか。
しかし拳銃は俺に向けられることなく足にしまう。
あくまで威嚇なのか、牽制なのか。それだけに使用されたソイツ。
拳銃をしまえば、かけていたメガネを外し、布で埃を拭いながら。
「私、今までアルヴィンに助けられっぱなしなんだもの。
それなのにお礼の一つもしないで構うななんて言われても拒否しちゃうよ。」
『あ、これこそゴシュジンサマからの命令、ってヤツ?』と笑う。
先程の銃を構えて撃ったとき感じた気配は、すっかり消えていた。
実際俺は彼女に雇われている。それは変わらない。
だけど、彼女のまっすぐな笑い方や泣きそうになるぐらいに不安を見せる彼女。
ころころコロコロ変わる表情は、見てて不快感を感じない。
不思議な事に。
「だったらさ…。」
「“構うな”以外だよね?」
今まで素手での制裁は何度も受けた。だが、先程の時とは一切感じなかったぬくもり。
きっと、素手の方が本心なのだろうと思えた。
だから、彼女は嫌っていたのかもしれない。銃で戦うニコラ自身を。
そう思えば、今までニコラは本心で俺に向かってくれた。
それこそ、嘘つきで裏切りも厭わないような俺を。
思えば思うほど、涙が出そうになった。
「アルフレド。」
「?」
「俺の、本当の名前。」
「ほんとう、の?」
何故、こいつに俺の本名を教えたのか判らない。
こればかりは、気紛れとかではない。
フラフラとした理由ではなくて、はっきりとした理由。
きっと、コイツについて行こうと思ったからだと思う。
「依頼人には教えた事はない。」
「それは、ほんと?」
「あぁ、本当だ。」
「信じちゃって、いいんだよね?」
「あぁ…。」
確認するかのように、ニコラは問いかける。
この様子は、いつも俺が彼女をからかったりスキンシップをするときの反応と一緒。
本心で触れていたと俺自身の中で実感がわくと、笑みを浮かべた。
おそらく、今までのような作ったような笑みとは違うやつ。
「二人きりの時に、呼んでくれないか?」
『勿論』と彼女は笑う。
これは、今までの成り行きの契約ではなくて。
真実、と意味が含まれる紫の宝石を携えて。
アメジスト・コントラクター
(やっと、これが付けられる日がきた、って感じ。)
(それは…前にやったやつか?)
(アルフレド、コレの意味。知らなかったの?)