惚れたが負け
心当たりなんて、ない。
だけど、言うならば…。
「あ、あの…。」
「ニコラ、どうかしたか?」
ジランドさんにいつもみたいに呼ばれて、仕方なく彼の私室に赴く。
(行かないと行かないで不機嫌さがあっさり頂点に達して自分の命が危険だとは言わない)
呼ばれたのははっきりとした理由はないものの、
いつも玩具のように苛めて面白がって遊ぶから、またその類だろうと思っていた。
だけど、今回は違う。
到着早々に背後に廻られて、急に足蹴にされた。
不意を突かれたのであっさりと倒れ、そのあとガチャリと音がした。
(多分、鍵を掛けられたんだと思う、というか…なんで?)
「なんで、私…。」
「くくっ、覚えてねぇのか?」
「えぇ、まったく。」
今の自分に心辺りなんて、まったく無い。それは最早断言だ。
確かに呆れられたり嘲笑われたりはするが、こんな展開はあまりない。
頭の中が混乱しているのに、ジランドさんはズカズカと接近してくる。
慌てて起き上がり距離を離そうとしたがすぐに腕を掴まれる。
「ちょ、ジランドさん!近いですって…!」
「そりゃ俺が近づいているからな?」
腕をつかまれたまま、するりと首に手が這う。
彼の手はどこかひんやりと冷たくて、急に体温を奪われた気がしてびくりと震えた。
「ひゃ…っ!」
「くく…矢張り虐め甲斐があるな。」
何処か楽しそうに笑うジランドさん。
ニヤリと鬼畜な笑みを浮かべて、ぐるんと後ろを向かされる。
背後にジランドさんがいて、耳元でくつくつと喉で笑う声が聞こえた。
後ろからではどんな状況か判らない中、ぺろりと首筋を舐められてぞくりと震えた。
「あぅ…。だ、だめ…です、って…。」
「俺が何の目的もなしに置くと思ってたのか?」
「だ、だって…何も、言わない…から。」
そう。出て行けもなにも言われないから居候してたのに。
理由も大して聞かず、ちゃっかり半分住んでた状態だった。
だから、バチが当たったのかなとひとりごちる。
「…っ!」
「意外にあるな。」
しれっとした表情で身体中を検査するかのように念入りに触れる。
そんな免疫なんてないから、ニコラは顔を真っ赤にして目線を下に下げる。
「は、破廉恥ですっ!」
二度目に言うが、ニコラはこういったことなんて、本当に免疫はない。
それなのに、ジランドさんはラインに触れられて、一歩間違えれば服の下に侵入…なんてことも。
人の気も知らないで!なんて思うけど、それでも反撃の一つもしないのは。
多分、私が彼に少なからず惚れているからだと思う。
きっとそんな感情を抱いていても、無駄だとは思うけど。
「フン、破廉恥だろうが何だろうが、俺に惚れた時点で最後だろ?」
…え?バレてたの…?ニコラは思わず固まった。
多分、そうだと思う。
最近は声を聞くだけでも嬉しく思えちゃう時もあるし。
多分、それはきっと。
惚れたが負け
(そうやって大人しく啼いてりゃいいものを)
(はは、破廉恥です!なな、なんでまた急に…!)
(てめぇをどうやって遊んでやろうか考えてただけだ。)