氷に囚われて

大好きなお仕事。
だけど、自分の時間も大事だよね。


そう思うのは、今。私は猛烈に睡魔がヒドイ。
というのも、ずっと掃除をはじめとする家事に追われ、序でに自分の訓練も忘れてはいけないからとやり続けてたら。

身体が若干追いつけてないのか、体中から睡眠を求められていた。
とぼとぼと自室に向かうと、青い影が浮かんだ。



「ふぁ…、眠…。」
「どうかしたのか?ニコラ。」

「…あ、セルシウスさん。」



ジランドさんが使役している源霊匣のセルシウスの姿だ。
彼の命令無しでは出られないはずなのに、何故この場にいたのかは特に気にしなかった。

でも、いつもジランドさんと一緒に居られてて少し羨ましいなって思うのは内緒だ。



「ううん、なんでもない。ちょっと眠くなってただけ。」
「…そうか。ならマスターに言っておくか?」

「ううん。仮眠程度だから大丈夫だよ。ありがと。」



心配してくれているのかな、なんて思いつつ、こくりと小さく頷いた。
(あぁ、もういい子すぎる。)



「じゃあ…ごめん。ちょっと寝る。」



そろそろ睡魔が限界を迎えて、軽くじゃあねと手を振れば彼女はすっといなくなる。
ひとりになって、部屋に入ってはベッドにダイブし、そのまま目を閉じる。

意識が落ちるのは呆気なく、すぐさま眠りに就いた。



だが、それをおいそれと許してくれないのが、彼女の主だ。
バン、と乱暴に扉を開け、カツカツと女子の部屋にも拘らず進めればベッドで眠るニコラの姿。

いつもなら、『寝てません!』と判りやすい嘘をついてまで起きてはいるが、今回はダメだ。



「おいニコラ!」
「……くぅ…すぅ…。」

「いい度胸してんじゃねぇか…。」



一方に起きる気配がない。
ころんと寝転がっているニコラの無防備な姿に、青筋を立てた。

するりと手袋を外して。そして。



「おい起きろ。」
「うわあぁあっ!!?」



ジランドがおもむろにニコラの晒されている首筋を直に触れれば、
酷く冷たい彼の手は、急激にニコラを覚醒させた。



「くく、色気のねぇ声あげやがって。」
「じ、じじ、ジランドさん!何してたんですか?!」

「あ?こうだが?」
「ぎゃあぁあっ!冷たーっ!!」



今度は項にずぽっと侵入させ、項の体温を急激に奪う。
まるで、寒い雪空の下にでも居たかのように冷え切った氷のようだ。



「なな、なんでこんな事するんですか!」
「るせぇ、てめぇが寝てるとコレが発動しねぇんだよ。」



“コレ”と指したのはチョーカーのこと。
この仕掛けは本当に何とかして欲しいと切に願っていたが、まさかの弱点を聞けた気がした。

だけど、油断しきっていたのがミスだった。



「コレ…付けている人が寝てると発動しないんですね。」
「あぁ、だからわざわざこうやって起こしに行ってんだろうが。」

「ちょ!え?!ジランドさん?!」



余りに唐突な事でも多少なら予想出来た。

ベッドに寝ていたままがいけなかったんだ。
まさかのジランドさんが、ベッドに乗り出すなんて。

しかも、私を覆う形で。
(え?これ、何のデジャヴ?)



「わざわざ迎えに来てやったお礼、させやがれ。」
「ちょ、なにお礼って!た、助けてー!!」



ニヤリと笑みを浮かべたまま、ちろりと舌なめずりするジランドさんに、思わずどくんとまた鼓動がなって。
しかも冷たい手によって覚醒しきった私の頭は、まんまとチョーカーの罠に取り込まれるのだった。





氷に囚われて
(ちょ、ジランドさんの手、冷たい!)
(くくっ、なら丁度いい。てめぇの体温を奪うまでだ。)
(だ、ダメです!ほんとに寒いのダメなんですってば!)