本音からセカイが広がって
正直、セカイの終わりを感じた瞬間だった。
いつもだったら、気にはしなかったのに。
「…はぁ…。」
私が、ルドガーの幼馴染で、ユリウスとも顔馴染みだから。
ルドガーのお兄さんであるユリウスとは、恋人のような関係だから。
それらが原因なのかもしれない。
ユリウスはやっぱりルックスもいいし、それに何より優しいから。
そんなユリウスに惹かれるファンの子が多い。
(だって、親衛隊が出来るくらいだし…。)
それで、私はユリウスとは顔馴染みだからって、陰湿な仕打ちをされる。
(今まで、気にはしなかったんだけど…。)
ユリウス様に易々と近づかないでだとか。
(だって、私から行かなくても来るんだもん。)
ユリウス様を呼び捨てにしないでだとか。
(だって、ユリウスが兄さんって呼ぶなって言うから。)
とかとか。
そういったくだらない事には首を突っ込みたくもないし関わりたくもないから無視をし続けたら、本気で潰しに掛かろうとしてきた。
ファンの子を怪我させたくないから黙っては居たけど、男を使うのは卑怯でしょ。
裏路地に呼び込んで男を大勢で囲むなんて、悪役の常套手段じゃない。
「さっさと降参でもしたら?それで二度と近づかないで。」
陰湿なファンのひとりの子が自信満々にそういえば、口々に他のやつらも罵倒など言ってくる。
ため息だ。それでガラの悪いそうな男とか使って怪我とかさせようとしてきたんだから尚更。
あぁ、コレ。“スイッチ”入った。
ため息をついて、スイッチが入ってしまったら、止まらない。
「はぁ……。先にケンカ吹っかけたの、そっちだから。
―――後悔しろよ。関わらなきゃよかった・と思うようにな。」
女の子には手をあげるつもりはなかったけど、男ならいいやと楽観視して叩きのめした。
私一応女だし、暴力沙汰とかしたくないんですよ。
本当に、護身術としてと理由でやり続けたことが良かったんだか悪かったんだか。
今じゃ過去に“ある呼び方”もされるほど、強くなってしまった。
「もう、終わり?」
「……ッ!!」
路地裏に立っていたのは、私と、首謀者の女たちだけ。
そう、立っていたのは、女だけ。
私を潰そうとした男たちは、地にひれ伏している。
だれもこんな光景を想像してなかったからか、一言だけで怯んでしまった。
(あぁ、こうなるって判ったら、最初からケンカなんて吹っかけないでよ。)
「…終わりなら、私帰るから。
――あぁ、今度また仕組んだら、潰すから。」
あぁ、最悪だ。吐き気がする。
こんな風に人を傷つけるようなことしたくなかったのに。
「……最悪。」
「ニコラ……?」
「え……?」
路地裏から、疲れた体で表に出てくると、このタイミングでは会いたくなかった人物。
ユリウス、アナタだった。
「ぁ…、ユリウス。」
「どうしたんだ?随分酷い顔してるが。」
「…あ、気にしないで。大丈夫だから。」
へらり、と笑う。でも、疲れきった顔で笑うなんて至難の業だ。
幼い頃からずっと一緒だったアナタを騙せるなんて、思っちゃいない。
「じゃあ、私帰るね。」
「まぁ、待てよ。俺も丁度仕事終わりだから。一緒に帰ろうか。」
腕を捕まれて、そのまま手まで及んでは手を繋ぐことになる。
さも当たり前のようにこなすアナタに、ドキっとしてしまう。
またこの光景を見られたらどうなるのか怖かったけど、手を離してくれなかった。
駅まで歩いて、ドヴォールからトリグラフまでそのままマンションに向かう。
勿論、手を繋いだままで。
歩いて家の前で止まろうとするとそのまま引きずられては、ユリウスの部屋まで連れてこられた。
流石にこればかりは抵抗できず、そのまま部屋にお邪魔してしまった。
中に入って扉が閉まれば、ユリウスが後ろからぎゅっと抱きしめてきて。
力強く抱きしめられて、さらりと耳元で言うから。
「何かあったら俺には教えろよ?」
アナタはとても優しいから。その優しさに甘えるのは厭。
知ったら戻れない気がして。
大丈夫といえたらよかった。でも言える勇気がないから。
私のGPSを開いてボタンを打つ。そして送信ボタンを押す。
勿論、行き先は隣にいるユリウス宛に。
送ればそのまま私のGPSをポケットにしまって頷いた。
ユリウスのGPSが反応して開いて送られたメール文を見ては、また力を込めて抱きしめた。
「うん…。」
「…そっか。辛かっただろ?」
“大丈夫”と言いたかった。あまり心配かけたくなかったから。
でも、不可抗力とはいえ誰かを傷つけるのは決して心地のいいものじゃない。
「ちょっと、大丈夫じゃ、ない。」
「辛いなら“辛い”と言っていいんだぞ。ニコラ。」
本音を口にするのは、本当に難しい。
年を重ねれば重ねるほど、それが難しいのを重々思い知る。
だから、まだ口には出せず、小さく頷いた。
本音からセカイが広がって
(ありがとう…ユリウス。ちょっと元気でた。)
(気にするなよ、ニコラ。お前は俺の恋人でいいんだから。)
(…ほ、ホントに恥ずかしい台詞を…!)