白昼堂々宣誓布告
別に、ケンカなんて売った覚えもない。
それでも、なんで“私”を知ってるのかははたまた疑問点だ。
「おや?これは久しぶりじゃないか、“舞姫”。」
声をかけられた方向を振り向くと、端整な顔つきをする男を見てルアは戦慄した。
その理由は、顔しか知らないが会いたくなかった相手だから。
そもそも、私をニコラと呼ばず“舞姫”と呼ぶのは、普通の関係の人間にはいないから。
赤いスーツを纏う男だが、顔しか知らないが私は知ってた。
名前は覚えてない。だって、ちゃんとした挨拶も交わしてないから。
でも、ファンの子がやたらに黄色い悲鳴をあげてたのは覚えてた。
「…ッ、あんた、は…。」
「久々に会えたんだ。お話でもどうだい?」
「お断りします。
それに、どなたか存じませんがその名で呼ばないでと以前に言ったはずですけど。」
「そんなツレないこと言うなよ。な?」
あぁ、本当に苦手。
この人を小馬鹿にしたような対応をするのだから。
ましてや、私の過去を知る人間なら尚更苦手心と嫌悪感をただ感じて。
こんな因縁のような絡みされてファンの子にお咎め喰らうなら早く助けてくれ。
(もう、早く逃げたい。このままじゃイライラが止まらなくなる。)
もう逃げようとした時に、誰かが近づくのを感じた。
「…リドウ。」
「おやユリウス室長。」
赤いスーツの男・リドウと呼ばれた男がユリウスと呼ぶとそちらの方を向く。
居たのは、白のジャケットを着こなす男。ユリウスで。
ユリウスの姿を見ては、助かったと心の底で思った。
だけど、ユリウスの表情が優しいものとかじゃなくて、どちらかと言えば怒りの感情を含んだ厳しい表情で。
「え?ユリウス、さ…、っわわっ?!」
「悪いな。こいつ借りてくぞ。」
それだけ言い残して、腕を引っ張られてはずるずると去ってしまう。
ただそれを見ていたリドウは『やれやれ』なんて呆れ顔で見てはその場を後にした。
一方。ユリウスにより連れ去られているニコラはただ引っ張られている腕の痛みに顔を歪ませていた。
ユリウスはそれを気にも留めず、トリグラフの路地裏まで連れ込まれていた。
流石にマンションだと、目立つからなのか。
意図はさっぱりだった。
「ッ、ユリウス…っ、い、痛いです…っ。」
「ニコラ。」
路地裏をしばらく歩かされ、静寂に路地裏が包まれればユリウスの足が止まる。
そして壁にドンっと追い込まれては、ユリウスが私を覆いかぶさるようにして近づく。
唯でさえ、逃げ道を奪われててドキドキが一気に押し寄せているというのに。
ユリウスの表情は、厳しさを含んだままだ。
この状況で、何を言われるのか。
たぶん、先程のリドウと呼ばれた男のことだろう。
それを問われたとしても、私はなんて返せばいいんだろうか。
顔しか知らない、なんて通じるのだろうか。
「ニコラ。なんでアイツと話していた?」
「話したくて話したんじゃない。あっちから話しかけてきたの。」
本当か?とでも言うようにユリウスの表情は以前と厳しいままだった。
でも嘘なんてユリウスには効かないのは幼い頃から知り合ってて学習した。
結局私は彼の質問に正直になるだけだった。
「…リドウと知り合いだったんだな。」
「私が“舞姫”と呼ばれた頃にちょっと。でも私は彼を知らない。顔だけ知ってた。」
“舞姫”と口にすればぴくりと眉が動く。表情も厳しいまま。
まぁ、その名前にいい思い出なんてないし、仕方のないことだとわかってた。
そもそも、“舞姫”って呼ばれていい気分しないし。
私の態度や証言にユリウスが私の顔をまじまじと見てくれば漸く表情が緩む。
(あ、やっと信用してくれたみたい。)
「それを訊いて安心した。」
「ふふ、何?私が浮気したと思った?」
「そうじゃないさ。」
『じゃあ、何で安心したの?』と質問すれば、ユリウスは白昼堂々とぎゅうっと力強く抱きしめてきた。
正面から抱きしめられるから、すごく恥ずかしい。もう真っ赤になるほどに。
「そうだったら、俺の恋人だって言わないといけないしな?」
ニヤリと少し意地の悪い表情に、不覚ながらドキっとしてしまった。
顔は勿論、見られたけど。
白昼堂々と抱きしめられながら、つくづく思う。
私はユリウスには勝てないし、勝とうとも思ってはいけないのだと。
白昼堂々宣誓布告
(だ、だから…なんでそんな恥ずかしいことを…!!)
(そりゃ、ニコラは俺の恋人だし改めて言う必要があるだろ?)
(ユリウス…私の心臓に悪いよ。)