再教育事件


気になることがあったとしても、
目の前の事件ですべて消える。



「ふあ…そろそろ倒れるかも。」



居候生活も大分慣れ、更には仕事生活にも慣れだした。
だがその疲労感は凄まじく、身体を休まなければ倒れそうだった。

取り敢えず今日の仕事は終わったので、呼び出しさえなければこのまま床についても良かった。



「……取り敢えず、浴びてこよ。」



少々だるくなった身体を少しでも休めるようにとシャワー室に向かうことにした。
ルア自身、此処数日はちゃんと身体を休める期間が短いため、早めに切り上げたとしても眠りに向かってしまうのだ。

シャワー室の仕切り前の脱衣所で服を脱ぎ去り、そのままの足でシャワー室に入る。
きゅ、と捻ればお湯が降り注がれていく。



「………ふぅ。」



シャワーの少し熱めのお湯が身体にあたって、体温以上の熱に安心感を覚える。
そして、一人になったときには大体雑念が色々混じるのだ。

今は睡眠は覚醒されているため、変な展開の雑念はないのだが。


たまにひとりになって考えるのは、ここの主さん・ジランドさんのこと。
彼が何のために動いているか・なんてことは一回も考えた事は無かった。

だけど、あの時の姿を思い出すと明らかに姿を隠しているとしか思えなかった。
顔を隠すような髪型に、あの姿で『私の名前』を呼ばなかったことと。

そう思えてならなかった。



「…多分、私が幾ら考えたところでなんにもないのにね。」



ニコラはひとりごち、シャワーを止めれば扉を開けた。
脱衣所で脱いでしまったので、そのままの足で部屋に入る。
強いて言うなら、下着くらいしか身に着けてない。

だって、入ってこないだろうとか思ってたから。なのに。



「なんて格好してんだ。ニコラ。」
「!!きゃあああっ!」



何で入ってきているの!という突っ込みよりも、目の前の事実に思わず声を上げた。
だって、ジランドさんが入ってきては当然のようにソファに座っていたから。



「じじ、ジランドさん!入るなら入るって…!」
「だったら鍵を掛けてけ。嫁入り前のガキがなんて格好してやがる。」

「あわわわっ!で、でで、でしたら向こう向いてて下さい…っ!!」



顔を真っ赤にさせて、ニコラは慌てて近くにあったシャツを羽織る。
ちらりとジランドさんを見て、此方を見てないと確認してはボタンをひとつずつ留めていく。
いつもの仕事用ではない、普段着の軽いズボンを履いて。



「終わったのか。」
「はい。……で、ジランドさん。今回は何の用で…。」



丁度少し離れた位置にお互いが居るので、ニコラが歩を進めて彼に近づく。
貸し与えられた部屋とはいえ、余りにも寛ぎすぎではないだろうか。
(いや、居候の私が言えたことじゃないんだけど…。)



「……あ、あの……?」
「先ずは、年頃の女が無防備だとどういうことになるか教育のし直しが必要のようだな?」



あの笑みは意地悪も含んでいるけど、どこか少し違う。
なんというか、まるで躾けられる寸前の何か。

教育のし直し、という言葉にまず固まる。



「…はっ?えぇえ?!」
「言っておくが、拒否権はねぇ。」



バッサリと言われながら、ひょいと持ち上げられて運ばれる先はご想像のとおり。
(拒否権ないって言っておきながらも、一回も受け入れられたことなんてないのに)





再教育事件
(大体!ジランドさんノックはしたのですか?)
(したが反応がない。だが開いてた。だから入っただけだが?)
(そ、その時点で不法侵入ですよ!)
(どっちがだ。)