恍惚グラス


日頃のお仕事は、静かな音だけど。
いつもの香りは変わらない。でも、少しだけ違和感。



「失礼しまーす、…ん?」



ちらりと覗いてジランドさんの部屋に入れば、相変わらず無音だった。
その無音の空間で、違和感に気付く。

くん、と匂いを嗅ぐとその正体に気付く。



「この匂い…アルコール?」



ジランドさんの部屋でアルコールの匂いなんて想像できなかったから、
不思議に思えて部屋に入る。

テーブルには、氷の入ったウィスキーがあった。



「これ…ジランドさんの、かな?」



多分。部屋の主を考えれば、主の私物なのだろうと思うが。
カランと、氷が解けてグラスにぶつかる。

そのグラスを持って見れば、光の加減でとても美しくみえた。



「でも、これ…いい香り。高級なのかな?」



無論、ニコラにお酒の類など無知とってもいい。
高級かというということも判らないが、いつもいた空間での違和感はすぐわかる。

だけど、好奇心もある彼女がこのあとどうなるかなんて。
容易く様子できた。


キィ、とドアがあけば薄いアルコールの匂いが広く満ちていた。



「……おい、ニコラ。」
「ふにゃ、じらんどさん…おかえりなさい。」



笑みをたっぷり浮かべて、甘えたように猫撫で声で名前を呼ぶ。
こんな姿など今まで見たことのないジランドにとって一瞬驚いたが。

香る空気に予想できたようで。



「ニコラ。勝手に飲んだだろ。」
「うふふっ、しゅき〜。」



むぎゅ、と甘えるように腰にくっついて。
本来のニコラならば、しないことで。

子供のような、でも甘える時にふわりと香る女性のそれ。



「ったく、ガキが。」
「んあ?」



顎を掴んでくいっと持ち上げられて、目線が合う。
ちゅ、と噛み付くようなリップノイズ。
それが段々と深くなって、ぴくりと小刻みに震えた。



「ふ…ふぁ、んっ。」



段々濃厚になるキスに、ぞくぞくとして蕩けきった表情。
キスは相変わらず応えるので精一杯だけど、この繋がる瞬間はどんな形であれ嬉しかった。

暫くしてようやく開放されると、どきどきと鼓動が煩かった。



「ガキの分際で酒に溺れやがって。」



くいっと表情を見られる視線に、どくんとして。
ちろりと舌なめずり。

それはいつもの合図だとわかると、恍惚な笑みを浮かべた。





恍惚グラス
(くくっ、少しはガキに酒の嗜みを教えるのも悪くないな)
(んぅ…ずるいよ。)