オニゴト


カツカツカツ、と全力疾走して。
バン!と適当な場所に突入して。



「ハァ…はぁ…っ。こ、これで…大丈夫、だよね?」



部屋の隅。死角になる位置で座り込んで呼吸を整える。
実は、今。ジランドさんととある勝負ごとをしていた。


このは約十分前の出来事である。



「ジランドさん!これ外してくれません?」
「却下だ。」



ジランドさんの自室で、ニコラは彼に交渉をしていた。
それは、ニコラに身に付けられている首輪もといチョーカーである。

そもそも、チョーカーはニコラが気絶していた時に強制的に付けられていたのだ。
付けた理由も判らず、このチョーカーはジランドの意思のままに動かされるものだ。

普通にすれば、問題はない。
だが、コレが発動された時が問題で。



「だって!これで命令されるのって痛いんです!」



そう「来い」という命令が下ると、チョーカーがまるで強力な磁石かなんかで引き寄せられる。
その力はまるで強い何かで首から引っ張られてるので、痛みなんて半端じゃない。
下手すれば絞まるような感覚にもなる。



「確かに最初は何で付けられたのかよく分からなかったのですけど、」

「なら…ひとつ、賭け事でもしねぇか?」
「…賭け事、ですか?」



賭け事、と言う言葉はニコラにはイマイチしっくりきていない。
だが、賭け事に慣れていないニコラが思うことは厭な予感しかしない。

賭けなんて受けても、勝てる気がしないからだ。



「あぁ、ニコラが勝てば外してやる。勝てなければそのままだ。」



ニヤリ、と笑って言い出されたことは。
鬼事。つまりは、鬼ごっこだ。

言われた二分後に私が逃げて、そこから十分まで逃げ延びれば勝ちだという。
最初は勝てないかも、と思ったが、ジランドはあることを付け足して言い出した言葉に希望が見えた。


“俺は走らない”と。
このジルニトラは広いし普通なら走らなければ鬼役は捕まえる事はできない。

それなのに、自ら言い出したのだからおかしいことだ。
罠かもしれない、と思いながらもその条件を飲んだのだ。



「ふぅ…。これで見つからない、あと…三分。」



ちらり、と貰ったタイマーを見る。
丁度三分を切っていて、このまま見つからなければ私の勝ち。

これで、この束縛から逃れられる。
こんなものがなくったって、私はジランドさんから逃げるつもりも何もないのに。



「ッ…寒いな…ここ、こんなに冷えて……。ッ!」



両腕を摩って肩を震わせると、ギィと不気味な音。
音の正体を聞けば扉が開いただけ。

人影がなくて、安心した。
だが、おかしいことに…この妙な胸騒ぎが引っかかる。


急に人の気配。
ドアが開けば、それは、それは。

この賭け事を言い出した張本人。
そして、あと三分彼から逃げ切れれば勝ちとなった、あの彼。



「ッ!!じ、ジランド…さん、どう、して…。」
「くくっ、単純な理由だ。」



そういって、何か機械を取り出すとピッ、ピッと機械音。
その機械には二つの点のようなものが点滅していた。

赤と青の点が。



「最初っから、ニコラの場所が判っていただけだ。」
「ッ、だったら…逃げて、」

「セルシウス。」
「はい、マスター。」



逃げようと走り出すと、同時のタイミングでセルシウスがふわりと現れて。
そのまま手を翳して、急激に足元が冷える。

気付けば、私の足は彼女にとって凍らせられて動けなくなっていた。



「ちょ!セルシウスさん!ジランドさん!それ反則だって…。」」
「“俺は走らない”と言っただけだ。場所は知っているとも、足場を封じるとも言ってないぜ?」



カツ、カツと足音が不気味に思えて。
優雅に、此方に向かって歩く。

私は、足場を凍らせて全く動けない。
なんとかして足を動かそう身動きを試みるが、気付いて見上げればニヤリと笑みを浮かべるジランドさんの姿。

するり、と頬を撫でられて、びくりとする。
彼の手が非常に冷たかったからだ。


そのまま腕を掴まれれば、タイマーを見ていた。
そのタイマーも、凍った所為か動いていなかった。



「惜しかったな?ニコラ。」



最初から決めつけられていた鬼事は、圧倒的敗北で終わった。
それを何も知らなかった私は、無力を思い知ったのだ。





オニゴト
(ジランドさん!ずるいです!最初から私の位置判ってたなんて!)
(お前のことだ。勝てるとでも思ってたんだろ?)
(…別に、私ジランドさんから離れるつもり何てなかったのに)