静寂ゼロの雫
灰色の曇天。
冷たく静かに注がれる雫。
「ふぁ…。寒い…冷たい…。」
ジルニトラから外に出て、甲板で雫を感じて。
雨空を呆然とニコラは唯々見つめた。
雨は陰鬱にさせたりするけど、私は逆に好きなほうだった。
見慣れない景色でも、知った景色でも、雨が降る景色は一緒だから。
ひとり世界にふけていると、扉が開く音。
それすらも気づかなかったけど、ふわりとタオルを掛けられてやっと気づいた。
「ったく、何やってんだ。ガキ。」
「ぁ……ジランド、さん。」
好きな声が静かに打った雨のお陰でいつもより綺麗に聞こえて笑みを浮かべる。
視界をジランドに移せば、彼の灰色のオールバックの髪は少し濡れていた。
「雨見ていると…懐かしく思えるんです。」
再び雨がする景色に目を移す。
海の真ん中で、孤独にぽつりと入り。音は静寂を貫くかのように静かで。
そんな世界で好きな彼と一緒に居られるのは幸せすら感じた。
「こんなモノかが?」
「はい。どうしてかは…判らないんですけど。」
苦笑じみて頬をぽりぽりと指で擦る。
あくまで彼女をそう“感じさせる”のは感覚。
それには証拠も、記憶も、ない。
「そういや、昔の記憶なかったんだったか?」
そういわれると、ニコラは小さく頷く。
前にジランドさんに『何処から来た』だとか色々聞かれたけど、昔の記憶はない。
まるでゼロの状態から世界に放り出されて、何も知らない赤子のようで。
「でも、不思議と昔を思い出したいとは思わないんです。」
「…?」
「今は…ジランドさんが一緒に居ますから。」
へにゃり、と笑みを浮かべてジランドさんに向けるとくるりと反らしてしまう。
そのままの姿勢でぐしゃぐしゃと髪を乱すかのように撫でて。
源霊匣の影響で、ジランドの手は雨よりも冷たかった。
「ったく、言葉だけマセやがってガキが。さっさと戻るぞ。
ニコラにはまだ仕事が残ってんだろ。」
「あ…はい!」
仕事はとうに終わったけど。
彼に呼ばれる声が嬉しくて、こくりと頷いて後に続く。
雨は時に懐かしい気持ちにさせてくれた。
厚い雲、透明な雫。
静寂ゼロの雫
(ほらよ。これでも飲んでろ。)
(え?これ…ホットココア?)
(身体が冷え切ってんぞ。管理ぐらいは自分でしろ。)