視線と願望


願望、それはある。
だけど、叶えてもらえるかは。別の話。



「あぅ…されたい…。」



ひとり私室で願望が零れた。

正直言ってしまえば、キスがしたい。相手は勿論ジランドさん。
寧ろ、何をされても嬉しい私だけど、たまにしかされないからされた分の嬉しさは格別なものである。

自分の願望を私室でこもって悶えていると、ふわりと冷気。



「うぅ…、言うか、言わないか…。」
「どうかしたか?」

「あ…。セルシウスさん。」



セルシウスの声が聞こえば、今の顔の状態をなんとか抑えようとパタパタする。
彼女だったら、ジランドさんに言わないだろうし言っちゃおうかな。



「あ、あのさ…ジランドさんのことなんだけど…。」
「マスター?」

「うん。その…。」



彼女だったら、話してもいいかなと思って。
つい、話してしまった。

話したら話したで『そうか。』とだけ言い残して。
ふわりと居なかったので、どうしたのだろうかと首を傾げたが。



「どう、したんだろ…?」



取り敢えず、疑問に思ったままベッドにインして悶々とした。
冷静にならなきゃならないと思えば思うほど、願望は膨れる一方だが。

そんな中暫くして、ドアが盛大に開いた。



「おい、ニコラ。」
「は、はい…っ!?」


ベッドに顔を埋めていたがビクっと震えて起き上がる。
寝ていたのではない。いつも『寝てただろ』といわれるが、今回は断じて違う!

あぁ、その声で名前を呼ばれるだけで幸せ。



「俺に言うことあるんじゃねぇか?」
「言う…こと…?」



何もいう事なんてない。強いて言うなら先程悶絶していた事だけ。
それ以外に心当たりなんてない、と言うとスッと出してきたのは源霊匣。
(え?ま、まさか言っちゃったの…?!)



「こいつから聞いたぞ?」
「ッ!!き、聞いたんですか…?!」



バタバタと手を払って顔を赤らめてなんとか誤魔化そうとすれば、そのままズカズカと近寄る。
(あぁ!もうその時点で恥ずかしくて倒れそう!)

言わないと焦れったいとでもいうように、そのまま後ろに倒される。
ボスン、と柔らかいベッドのスプリングが背中を押した。



「…で、さっさと言え。」
「あ、あの…き、き、き…。」

「き?」
「……キス……。」



自分で白状したのに、なにこのちょっとした拷問。
しかも、倒されたままなのに何故か跨って。

微かな。それも聞こえるかすら怪しいくらいの小さい音量で言うと。



「ほぅ?キスがしたいわけか?」
「ッ!!」



ストレートな言葉にボンと爆発したかのように、顔を真っ赤にした。
真っ赤にしたまま目を反らせば、顎を掴まれて正面を向かされる。



「てめぇから言い出せば、叶えてやってもいいぜ?」



ニヤリ、と笑みを浮かべてそう命令されればドキっとしてしまって。
唯々頷いて、言われるがままになった。



「…き、キス…して…下さい。」



爆発寸前の言葉で言ってしまうと、目がかちりとぶつかって。
顔が近づいて唇が重なり、そのまま力も何もかも取られてしまったのだ。

それは、まるで。視線を絡め取られたかのように。





視線と願望
(…で、セルシウスさんが言っていたのですか?)
(いや、あいつは『ニコラがお願いしたい事がある』としか聞いてなくてな。)
(そのまま…私に問い詰めた、わけ、ですか…。)