甘いひと欠片

もぐもぐと食べる空間には甘ったるい香りが満ちる。

それは、チョコレートの香り。
幼いころから好きだった、お菓子の香り。



「なぁ、白雅。」
「んあ?」



半分口の中に入ってるからか、もごもごとした喋り。
ひとりで食べていたのを、隣にまでコクトーが接近しては座る。



「美味いか?」
「うん、美味しいよ。ザッハトルテ。」



最初は甘ったるいチョコケーキが好きだったが、今ではザッハトルテがお気に入り。
それに合わせる紅茶は少し甘さ控えめに。
彼女・白雅が好きな食べ方のひとつだ。

実は、これはコクトーからのお土産だったりする。
何故かまた唐突に遊びに来たのだが、今度はお土産付きだったりする。

中身はザッハトルテが二切れ。しかも二人で食べるのかと思いきや、白雅にとくれたものだった。
折角なので、ということで素直に頂いている私がいるわけなのだが。



「昔から好きだったよな。チョコ絡みのものは大体な。」
「うん。美味しいじゃん。」

「まぁな、なぁ…。白雅。」



不意にコクトーから声がかかればフォークを銜えたままちらりと彼を見る。
穏やかな紫の瞳は、どこか意地悪を含んだものだった。



「ん?」
「一口くれよ。」



彼からのおねだりには珍しくぽかんとしていたが、そもそもコレはコクトーからのお土産だ。
あげないなんて意地悪は言う必要がないと、フォークに一口分渡そうとするが、彼が受け入れない。



「はい、」
「違う違う。コレでだ。」



そう言うと、半開きにして自らの唇に指をとんとんと当てる。
その意味が解った途端に白雅は顔を真っ赤にした。

つまりは、こうだ。口移しで食わせろ、と。



「!」
「お土産を俺にも食わせてくれよ、な?」



場所は自宅だが、色々問題だ。(というより、コクトーが何故か家に来たのだが)
キスなら何回かしたが、口移しは初めてだ。しかも白雅から。

解りきったことに白雅#は顔を真っ赤にしたが、一つ上の幼馴染は顔をニヤニヤとさせたまま、まだかと見つめてくる。



「っ、もう…。」



白雅は相変わらず赤らめたままだが、仕方ないとぽっきり折れる。
そうすれば一口分のザッハトルテをフォークにさしたままだったが、そっと歯に挟む。

そして、崩れないようにとそっとコクトーの所まで近づけば『イイ子』だと笑みを浮かべて唇を重ねた。
重なった唇から、歯がザッハトルテに当たったような感覚がしてそのままぽろっと零れる。

長い口付け。それも、口移しだ。
白雅にとっては長い口付けは慣れていなかったため、まるで硬直したかのように固まったままだ。



「…んむっ。」
「ごちそうさん。白雅。」



唇が離れて、漸くコクトーが唇を舐めて彼からの言葉を聞こえればやっと口移しが終わったと解る。
その瞬間に、ボンと顔を真っ赤にさせた。

白雅は自身の唇に触れれば、益々紅潮させた。



「…っ!」
「ククッ、相変わらず顔真っ赤。」
「う、うるさいっ!」



照れ隠しに悪態を少しばかり吐くも、コクトーはそれが唯の照れ隠しだということは承知だった。
宥めるようにポンポンと撫でる男の人の手は大きく感じれた。

最初は幼馴染の手なのに、
今の白雅にとってはそれは恋人の手と感じ、そっと寄りかかった。






甘いひと欠片
(でもコレよく手に入れたよね。コレ人気で中々手に入らないんだよ?)
(そりゃ白雅の喜ぶ顔が見たくてな?)
(うっ…、ありがとう。)