ココロノヒカリ


何も見えない
何も聞えない
何も解らない


あるのは虚無というよりも、ただの無。
自分の望みが、何だったのかということすらも。


長く果てのない夢を見ていた気がする。
自分の光という幸せを失ってから。
永い永い夜を味わっていた気がする。

何もない、ただひたすらに真っ暗で。



『………ぇ、………ねぇ…。』



そんな中。声がする。
聞いたことあるような、そうでもないような声。

しかし何処か懐かしさすら感じらせる。
いや、懐かしさというよりは記憶に新しい。


それを確かめるために、声のもとに行こうとゆっくりと目を開いた。
顔を覗き込むような影が出来て、再び声が聞こえた。

顔が、よく見えない。



「起きた?」
「………誰だ。」

「私の顔、もしかして忘れちゃった?」



朧気な視界。ぼやけた声。
それでもやがて意識と共にハッキリし、誰が声を掛けてくれたのかはすぐに分かった。


白雅。それが彼女の名前。この地獄で、出会った女。
自分のことを大切に思ってくれていた女。
そして、コイツを大事にしたいと思った。



「…か。」
「そ。忘れてなくてよかったわ。」


多くの鎖に縛られ、その場から動かない男。
沈められていたとはいえ、不可視な鎖が更に増えた気がする。

ほっとしたような表情をして、くいっと更に近づく。
手を伸ばせば、そっと右目に触れた。そしてそのまま右側を中心に触れていった。

普段は黒い布によって隠されていた右半身は晒されていたままだった。
朽ちていて、肌の色は土色になり、ミイラ化していた右半身。

彼女はこの姿を見たのは初めてだった。にも拘らず、
誰もが驚く姿を怯えも恐怖心に煽られることもせず、肌に触れる手は傷を労わるように優しい触れ方だった。



「テメェは、俺が怖くねェのか?」
「何今更なこと言ってんの?」



質問を質問で返してくる。それも即座に。
余りも予想外な言葉に、コクトーは目を丸くした。



「私がコクトーのことが怖いって思ってたら、わざわざ此処まで来ないよ。」



此処は最下層。
白雅がコクトーと出会わなければ、先ず此処まではいかない。
出会う前は、第一階層の隅でクシャナーダに喰い殺されるのを怯えながら廃人に化していたに違いない。

それを変えてくれた、救世主でもあり恩人だった。



「今まで第一階層にいたような廃人になるんだろうって思って怯えて引き籠っていた。
だけどアナタがいたから少しは頑張れると思った。だから。」



“アナタの行くところなら何処だって付いていく。”
“それが、罪だとしても。”

白雅は咎人として生きていくことを選んだと同時に、コクトーと共にいると抱きしめて誓う。
普段の彼女なら、こんなことを進んではしない。



「馬鹿な女だ。ホントお前ェは。」
「何とでも言って頂戴。惚れた弱みでもあるんだから。」



いつもなら、こんなことを言わない。
内側で思っているだけで、口にはしない。

だけど、時々見る彼の表情に心を動かされる。
此処は地獄なのに。折られる心なんて必要かどうかすら、問われるのに。

“ねぇ。一緒に”なんて言えないから。

私は、ただ痩せ細った右半身を壊さないように。
そして逞しい左半身を離さないように。


私から、アナタという光を奪わせないように。
強く強く、抱き締めた。






ココロノヒカリ
(お前ェがこうするなんて珍しいな。)
(そう言ってるともうしないよ?)
(ククッ、白雅。)
((お前ェがこうしていれば、光を二度も失わずに済みそうだ))