繋がりは、時に大事だって思い知らされる。
その繋がりは、記憶や感情があればずっと残る。
そして、その繋がりが切れるときは。人間が、ただのヒトに戻る瞬間だって。
「何だかねー。番人もいないと平和だわ。」
ひとりの少女が無機質な空を見上げてぽつりと呟いた。
舞台となる世界の名前は地獄。そして今はその地獄でも第二階層にいた。
辺り一面は水平線上となり、点々と蓮の花を模った岩と地獄の番人の骨となった墓がある。
本来ならこの地獄という舞台で、安息など微塵もないはずなのに無機質な空とぽっかりした心がそれをひと時だけでも忘れさせていた。
こんな場所で安息だとか、恐怖心を忘れさせるとかなんて言う人間なんて私ぐらいだろうなとも思う。
不安は確かにある。恐怖もある。
でも、それだけじゃないってことを教えてくれたのは――――――。
「……。」
ひとりで無機質な空を見ると、不意に思い出すことがある。
こんな場所に堕ちる、ずっとずっと前。この場所は知らないけれど、あの人を時々思い出す。
生前の記憶はクシャナーダに喰い潰されていくうちに薄れてはいるが、“存在していたという認識”は色濃く残る。
とことんまで削られているのに、きっと底に根付いているから忘れられないのだろう。
確かひとりの青年、だったと思う。
何故その人物が忘れられないのかは、記憶が剥がれている。
時々こうしてひとりになると不意に思い浮かぶ。
今の所番人の気配もないから今はこうして、ただ虚空の空を眺めている。
空を眺めていると、後ろからコンと背中を叩かれた。
「ん?……あ。」
「白雅。何してんだ、こんな所で。」
くるりと振り向くとそこに居たのは一人の男がいた。
コクトー。それが彼だ。この地獄という舞台で唯一、接触した人物だ。
黒い布で顔の右側から首、鎖骨下辺りまでを覆う。
素顔は見たことはあるにはあるが、それを知っていても隠すのだからきっと良しとは思っていないと思う。
そのため、傷口を抉るようなエグイ真似はせず、触れはしなかった。
白雅は改めて彼を見た。
黒い布の隙間から見える綺麗な白髪。
初めて見た気がしない、綺麗な髪に、鮮やかな紫の瞳。
――――どこかで、見たことがある色。
「なんだか、さ。」
「あ?」
「私とコクトー。前にどっかで会った気がしない?」
“気のせい”“そんなことはない”そう片づければすべてが終わる。
だけど、無性にあの記憶が脳裏に過った直後にコクトーの姿を見ると、どうしても重ねてしまうのもまた事実で。
余り此方の意識だけで重ねてしまうのは、余りにもコクトーには申し訳ないと思えるから。
「まぁ…。最初お前を見たときはそう思ったがな。」
「あれ?そうなの?」
意外すぎる言葉に、思わずぽかんとしてしまった。
そういうと『何間抜けな顔してんだ』と頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。
この感覚も、今でも時々感じるが、もっと昔にもされた記憶がある。
というより、このぬくもりを知っている…?
「じゃあさ。再会出来た、ってことでいいのかな?」
「んー、そうかもなぁ。」
「そうだったら嬉しいな。」
無性に嬉しくなってへらっと笑うと、何故かコクトーは一瞬目が点になり、直後にまたぐしゃぐしゃと撫でた。
今度は、髪をぐちゃぐちゃに乱すような撫で方で思わず白雅は笑うのも止めては頭を抑えた。
「わわわっ!何して‥っ!」
「白雅お前可愛すぎ。」
「な!何‥いって‥?!」
彼の言葉を聞いた直後。ぎゅっと強い力で抱きしめられては肩に頭の重さがのっかかる。
余裕な身長差を身体の各部で屈折させ、耳元でたったひとこと。
それを言われてしまった白雅は頬を紅潮させ、何も言えなくなってしまう。
白雅の心を揺り動かす、一言。
「俺はずっとずっと前から、白雅に会いたかったんだぜ?」
あ。やっぱり聞いたことがある声。
あの時の人って、もしかしてコクトーのことだったのかな。
『でも、まさか。こんな所で会えるなんてね。』
流石にそう思ったよ。
記憶を剥がされて、誰かも曖昧で解らなくなっていたのに。
昔は近かったのに、時間が距離を引き離して。
長く長く時間が距離も認識も離して薄くして。
でもね、色濃く存在は残っていたんだよ?
ホラ。今はこうやって再会してる。
これって、つまりは奇跡。ってことでいいんだよね?
「ねぇ、コクトー。」
「ん?どうした。」
そういって、右目の…黒い布で覆われた部分にそっと触れる。
今は後ろから抱き締められているからちゃんとコクトーの顔を見ては出来ないのだけれど。
それに、彼の黒い布の下は知っている。だけど、労わるような触れ方で。
白雅は柔らかい声色で、頬を染めた色で、笑う。
「また、会えたね。」
遠いところにいる
(じゃあ私は、コクトーを追っかけた感じなのかな?)
(…ククッ、そんなに俺に会いたかったのかァ?)
(なっ!何言ってんの‥!)
(少なくとも俺は会いたかったがな)
(…っ、ばか(でも好きなんだよね))
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企画夢。