君を探し出す
離れ離れじゃない。
繋がりを感じられれば、どんなところだって。
最下層。地獄の底よりも浅く、また深い場所。
そんな中でひとりの咎人がまた生き返った。
この世界で死ねない咎人はずっと死と再生を繰り返す。
そして殺されてはまた生き返る。
砕け散るまで何度も何度も何度も何度も。
どろりと、溶岩のようになっていた自分の身体がじわじわと固形化する。
そして少しずつ人間の形になる、外側も。内側も。
すべての器官が作り、地獄の瘴気が肺に入り吸い込めば大きく咳き込んだ。
「―――――…ごほっ…あぁああっ!」
急に体内に送られる猛毒な瘴気。肺に入り込んでくる。
瘴気が彼女めがけて殺到したかのような感じで苦しくなり、思わず声をあげた。
死んでから生き返る。この瞬間は白雅は嫌いだ。
苦しいし、何より激痛が走る。
そんな中。白雅の元に誰かの足元が視界に移った。
荒げた息を何とか整えようとしつつ、地面に這っていた顔を上げる。
暗く影になっていたのを何とか蘇る視界で誰なのかを探る。
その人物が誰かと解った時、その人物はニヤリと笑みを浮かべて屈んでは距離を縮めた。
「‥‥よぉ。白雅。」
「はぁ、はーっ‥‥、‥は‥ぁう‥。」
憎たらしく名前を呼んでやろうと思うも、まだ正常な動きをしていないからか息が出来ない。
吸って吐いての呼吸をひたすらするしかなかった。
そして漸く喋れるようになれば大きく一回息を吐いた。
彼女が喋れるようになったかと解れば、その男は口を開いた。
「ククッ、これで何回死んだ?」
「うっさい‥‥はぁ‥っ。」
悪態を吐けば『大丈夫そうだな』と笑って言う。
あぁ、なんかこの清々しい笑みがムカつく。と、いうのも。彼に一回殺されているから余計にそう感じたのだ。
「っ、大体一回不意打ちで刺したんじゃないか!」
「何言ってんだ。番人に殺されるよりマシだろ?」
「幾ら死なないって言われてもね‥。生き返る瞬間は苦しいし痛いんだよ!」
確かに番人に殺される方が恐怖心が死ぬ間際に一気にのし掛かるからそれは嫌だ。
そういう意味ではこの男に殺される瞬間は恐怖心がのし掛かる瞬間はないからまだ幾らかマシだ。
だがそれとはいえ、結局は殺された。
あまり意味もない気がして止まない。彼女はそうよぎった。
「お前のためにわざわざ付き合ってんだ。有難く思えよな?」
そう。ただ殺されることだけではなく、私は彼に特訓を申し出た。
特訓とは、地獄の世界で身に付いた異能の力を使う特訓。しかしその力は私なんか最近身に付いたようなもの。
コクトーは私と出会う前からずっとその力を身に付けては十分な程鍛え上げていたから力の差は圧倒的。
大体の結果は秒殺されるか流されるも結局一撃。
勝てないとわかっても、だからといって彼女は特訓の申し出はやめなかった。
「うっ‥。確かに普通にやっても秒殺にはされるよ?でも、」
「大体なんでそんなに、やりたがるんだ。」
自分が言う前に、コクトーが覆い被さるように質問した。
ぴたりと固まる私。そして黙り込んでいた口がやっと開いた。
「私だって‥強くなりたい。」
「あ?幾ら鍛えても番人には敵わねぇことは知ってんだろ?」
「そうじゃなくて!」
確かに幾ら鍛え上げても、クシャナーダには勝てない。絶対的な力で無力さを思い知らされる。
でも、白雅が鍛えたいと申し出る理由はそれではない。
もっと、純粋で単純な。
「‥‥だったら何だ。」
「護られてばかりじゃイヤなの!私だってコクトーのこと護りたい!」
一気に言って息を荒げたが、何を言ったか判った直後に頬を赤く染めた。
彼女の分かりやすい反応を見れば恐らく本心なんだろう。
そうだと判ったコクトーは、小さくため息をついた。
「‥バカな奴。」
「なっ!」
「それで死んでちゃ意味ねェだろ?」
バカだと言われても、ポンと撫でられる感覚には心が落ち着く。
ごもっともな事だけど。守られるばかりな彼女はそれを嫌とし、自ら強くなりたいという意思は固かった。
「‥それは確かに。でも生き返るから問題ないでしょ。」
「お前がなくても俺が問題有りだ。」
自分自身が問題ないと言っても彼が問題ありと言う。
それの理由が解らなかった白雅は思わず首を傾げて問いかけた。
「‥なんで?」
「お前が死ぬのは見てらんねェ。」
「‥‥はい?」
一瞬固まった。でもなんか言われたことに顔を赤らめた。
なんやかんやで大切にされているのかな、なんて傲ったことを考えていたから。
「白雅を毎回迎えに行く俺の楽しみを奪う気か?」
「なっ!私は楽しくなんかない!」
前言撤回!大切かと思ったのに単純に楽しむだけとか言い出した。
(気づいてたから知ってたけどコクトーはただのSだ。それもドS!)
「それに戦う度にコクトーに殺されてちゃ番人と大差ないでしょ!だからたまには勝たせてよ!」
「断る。」
「!なんで、」
「お前には俺の傍でいて貰わなくちゃ困るんだよ。」
コクトーが私を勝たせない理由。
私を殺すときは一瞬にする理由。
その理由がなんとなく、わかった気がする。
勝たせない理由は、殺されても迎えにいっては傍に置くため。
一瞬で殺す理由は、殺しても恐怖が私を呑み込まないように。
それが歪んだ理由。でも愛情を感じられる理由。
それでも。最下層送りから生き返る瞬間の痛みと苦しみは尋常ではない。
「‥殺される度に最下層送りされて苦しむ身にもなってよ。」
「生憎俺はお前に殺されてやるほど優しくねぇよ。」
「!」
優しくない、なんてよくハッキリと言えるもんだ。
何か涙を浮かべそうになったが、スッと顎を持ち上げられた。
紫色の優しい目がこちらを見つめていく。
「だが‥。」
「?」
「白雅ならどんな所に居たって、見つけてやるよ。」
それはおそらく。
歪んだとしても、大本は純粋すぎる愛情。
君を探し出す
(最下層に送りつけても、必ず迎えに行くからな。)
(‥嬉しいんだけど‥それって、まるで‥ストー‥、)
(また刺されてェか?)
(‥‥‥遠慮します。)