仔猫の眠り

白雅はいつもの場所に居た。
それが第二階層。彼女いわく、地獄の中で最もマシな場所らしい。

第一階層は大勢居てつまらない、とか。
第三階層は砂漠にいたくない、とか。
最下層は言うまでもなく怖いから、とか。


そんな理由を付けては第二階層に殆ど居る。
居ない時は大体殺されて再生で最下層にいたり、現世に行きたいからって第一階層まで行ったり。


まるで猫のような気まぐれで行動する彼女を、コクトーは探していた。
そして、見慣れた人影を発見して近づくも、彼女はその場から動かなかった。

…というより、いつもと少し様子が違う。


「白雅?」


試しに名前を呼んだが返事をしない。更に近づくと、その理由ははっきりした。
白雅。そう呼ばれた少女は小さな寝息を立てて眠っていた。


「……くぅ…すぅ…。」
「…コイツ、此処が地獄だってこと忘れてんじゃねェか?」


思わずコクトーもそう思ってしまうほどの能天気な寝息を立てる白雅。
こんな場所で寝ていたら、何れは番人に捕まっては喰い殺される。

白雅だって、そんなの解りきってるのに眠っていた。
そんな彼女にため息をついては、ゆさゆさと揺さぶって起こした。


「…ん…?…ふぁ…。よく寝た。」
「よく眠ってたようだな?白雅。」


そもそも、咎人には眠る必要はない。
それにも拘らず、白雅はやっと目覚めたかと思いきや平和を丸出しにして大欠伸をした。


「うん、…結構寝た気がする。」
「お前な…喰われたらどうすんだ。」

「その時はその時だよ。眠ってる間だったら恐怖心はなくなるかなーとか思って。」
「…。」


『馬鹿だ、コイツは本物の馬鹿だ』と呆れ顔をしてコクトーは思った。
そんなに此処の番人は優しくなどない。
殺される恐怖の対象だというのに、あくまで能天気な発言は止めない。


「でも、ま。いいや私は。」
「?」

「だって、もし襲われてたらコクトーが起こしてくれるものね?」
「…。」


『俺は目覚ましか?』なんて思いながら、彼女の寝惚けたような言葉を聞いて白雅の髪をぐしゃぐしゃに撫でた。
いつもなら赤くなったり抵抗するのに、今回はやけに大人しい。
彼女の真っ赤になって反抗するような反応がみたいのに。


「白雅…まだ眠いのか?」
「…うん。寝ようと思えば寝れるかな…。」


このまま眠り続けそうな勢いで白雅は再び欠伸をした。
恐らくちゃんと覚醒しなければ、白雅を弄ったって大した反応は見せない。
寧ろ、彼の方が調子が狂いそうだ。


「だったら寝とけ。」
「コクトー…は、どうする?」

「一緒に寝よう、とでも言いてェのか?」
「だって…寝てたら襲われるんでしょ?」


『質問を質問で返すか。』流石に寝ぼけ状態の彼女はこうなのかと思いながらくつくつと笑う。
ポンポン、と優しく撫でながら『だったら見張っておいてやるよ』と言うと、
珍しく柔らかい笑顔を見せてその場でくるまって眠った。

その仕草と云い気まぐれと云い、まるで猫のようだ、
なんてコクトーは思いながらくるまった彼女に近づいてそっと寄せた。


ただ、ひとつの嬉しい誤算は。
珍しい彼女の寝顔を独占出来た、ということぐらいか。




子猫の眠り
(くぅ…すぅ…ふにゃ…。)
(よく寝てやがる…キスでもしてやろうか?)
(…んぅ…こく、と…。)
(…キスするか。)