キミノキマグレ

珍しいこともあるなぁ、なんて思ってたりした。
基本は何考えていることが、想像もしないというか解らないというか。


「‥なぁ、現世行ってみねェか?」
「‥え?」


ぽかんとした、表情を浮かべてしまった。
という言葉が最も合う表情を今の白雅はしていた。


「あんま此処にいても面白くねェだろ?気分転換だ。」


『気分転換』と言う彼に思わず目を丸くした。
現世に出ると、番人に見つかったら最後。確実に殺される大きなリスクがある。

コクトーはリスクを負うことは好きではなかったのに、今は彼自ら言い出したのだ。


「‥珍しいね。いつもならリスク負うこと嫌うのに。」
「ずっと此処に居たい訳じゃねぇからな。それに‥。」

「それに?」
「お前ェがそんな顔してんのは面白くねェの。」


まるで恋人のような言葉。
恋仲の関係はあるけど、白雅はそれを心の内側で納得しているだけで言葉にはしない。

それも勿論、コクトーは知っているわけで。


「ふふっ、何それ。でもいいよ。行こ?」


珍しく乗り気な彼の思いを断る理由はないため、すぐさま頷いて現世に行くために第一階層にまで飛んだ。
現世に行く前に顔を晒さないようにコクトーは黒布で口元まで深く覆い、白雅はフードを深く被った。

地獄の空間のずっと上の空間で亀裂を入れては現世に入る。
勿論猛毒な地獄の瘴気が現世に漏れないようにすぐに結界を張る。

相変わらず地獄の世界と比べれば、どれだけこちらの方が平和的なのかよく解る。
それでもかつてはこの世界で生きていた頃は、空を見上げることすら嫌悪感でいっぱいだったのに。


「ふー、やっぱり現世の空は澄んでるねー。」


フードを被っているから、口元は晒したまま。
目一杯空気を吸い込むも地獄の瘴気のような毒々しさは感じない。

景色もあの面白みのない場所ではなくて、ちらほら見える人間とか家々を囲んだ景色とか。


「…ねぇ、何で…。」
「あ?」
「現世行こうと思ったの?」

「何、ただの気まぐれだ。」
「ふーん…。」


これ以上は何も聞かないことにした。
生前は嫌っていた世界。それは、自分を嫌うものが周りに多かったから。
でも、嫌っていた世界は今いる地獄という世界と比べたら甘いもので。

しかし、地獄の世界を底から嫌悪することはない。
その理由はきっと、あの世界ではなかったものがこの世界ではあったから。


「でも、私もたまにはコクトーの気まぐれに振り回されてもいいかな。」


生前だったら、こんなに綺麗に笑えなかったのかな。と思い返しながら白雅は笑った。
あの世界ではないものだけど、この世界ではあったもの。
それはきっと、笑顔を向ける相手の存在なのだろうか。

綺麗で素朴な笑顔を向けると、大きな手が頭に乗っかった。


「俺は、いつもお前の表情に振り回されてるがな?」


振り回したり振り回されたり。

それでお互いの今の関係が成り立っているのなら。
今回は、君の気まぐれで動いては振り回される。


でも結局。私は彼に振り回されていた。
この言葉で頬を紅に染めたのは云うまでもない。




キミノキマグレ
(も、もう…そんなこと言って、)
(俺は元々自分に素直な方だぜ?)
(だ、だからって…反則だよ)