変わりもしない環境。
変わりもしない関係。
そして、変わる刺激。
「‥暇だわ。」
「あー‥楽しいことないかな。」
ぼそぼそと呟く白雅。
第二階層の空をただ意味もなく転がっている中で、見慣れた変わりもしない景色に人影がひとつ。
「あるわけねェだろ。」
「あ。コクトー。」
ころんと寝転がっていたが、声がかかりすくっと起き上がる。
コクトーは白雅の呟きに呆れたような表情になっていた。
「何おかしなこと言い出してんだ。ここは地獄だぞ?」
「知ってるよ。でもここ数日クシャナーダには襲われないし、朱蓮たちにも会ってないし。
あるのは無機質な景色ばっか。流石に、ね‥。」
『気が参っちゃうのよ。』と彼女は乾いた笑いをしながら言う。
刺激という刺激がまったくないこの世界。
あるとしたら、それは恐怖心と虚無心だけだった。
「心が折れねェ時点で参るも何もねェだろうが。」
「ふむ、そりゃそうだ。」
彼の言葉はごもっともである。
感情とか心は無くしてはならないものだが、逆にこの世界ではそれの無意味さを思い知る場所でもある。
地獄では、生前でのような自由もなく感情もまた不要に感じる。
しかし、無くした後に待つのは唯の無だ。
己という人格すらも無くしてしまう、意味もないものだ。
だからだろうか。彼女が生前にも持っていた者を欲しがるのは。
「でも‥なんか刺激が欲しくて。」
「ほう‥?刺激か?」
「あ‥うん。」
何やらニヤリ、という言葉がぴったり似合う。
それをまさに浮かべてはスッと白雅に近づいてきた。
一瞬その反応に遅れたから、今に至っているのだと思う。
「なら‥。」
「え?ちょ!」
折角起きたのに、肩を押されてぱたんと倒れた。
そして倒れた私の上にコクトーは乗りかかってきた。
「俺と刺激的なことしようぜ?」
「…!ば、ばかじゃないの?!」
思わず退くようにと身体を捩ってみたりするものの、全く効果がない。
寧ろ、頬にするりと撫でてきて彼女の目を見てきた。
「俺は本気だぜ?ん?」
「だ、だから‥って‥その、あの、」
しろどもどろにする初々しさ。
別にこういった展開が初めてだとかじゃない。
単純に、この男のことに関して好意を持っている所為だからだと思う。
でなければ、こんなに意識することはない。
「俺は白雅を手放したくねェ程好きだが、白雅はどうなんだ?」
鮮やかな紫の瞳がやけに綺麗。
そんなところに気を取られて、彼との距離の近さをすっかり忘れてしまう。
「白雅。」
「…!」
低く囁かれる声。どこか艶もあって落ち着きと色っぽさを同時に兼ね備える声。
どうなってもいいや、と片隅で思いながらも。
やっぱり、変わり映えのない世界でも彼と一緒なら別にかまわないと思えてしまうことである。
彼女の肯定の代わりに、抵抗もしないキスがそれを物語った。
無刺激な世界に刺激を
(うぅぅ…。刺激が強すぎるよ。)
(刺激が欲しいて言ったのは白雅だろ?)
(た、確かに…そうだけど。)