地獄。
それは直接的な恐怖もありながら、心身共々追い詰めていく。
身も殺されに殺されて粉々にしていき、心も再生できなくなるまで完膚なきまで折れさせる。
面白みもなんにも存在しない。あるのは苦痛と虚無。そんな漂う世界。
そんな中で、地獄の住人・咎人がふたり。
ひとりは黒の布で右目を覆う長身の男・コクトー。
もうひとりは小柄で黒い髪を背中まで伸ばしている女性。名前は水上白雅。
「ねぇ。コクトー。」
「あ?」
「こっち見て。」
白雅という女性はいつも気紛れである。
それもこれも退屈な地獄という世界の中でささやかな退屈しのぎのためだ。
勿論、それは彼女だけではないが。
コクトーは言われたとおりに振り向いたが、彼女はどこか物足りなさそう。
それを不思議がり、コクトーは首を傾げた。
「?」
「そ、そうじゃなくて…。」
埋まることない身長差を白雅は精いっぱい背伸びする。
背伸びしたり、小さく跳んでみたり。
それらの動きで、解ったのかニヤリと笑みを浮かべた。
「…あー…、成程な。」
「!」
解ったように笑みを浮かべれば、コクトーは腰から曲がって彼女と目線を合わせる。
丁度、顔同士がくっつくような距離で。
何もかもわかったような様子で、ニヤニヤと笑みを浮かべた調子で言ってきた。
「こうだろ?」
「むむ…ニヤニヤしながら言うの反則。」
なんだかコクトーに何もかも見られたような感じがして白雅はムッとする。
目線を合わせたまま白雅は何かを思いついたようにニヤっと笑みをこぼす。
「だったらお返し!」
顔がくっつきそうな距離で、不意に白雅から距離を縮めて軽いキスをした。
ただのお返しだけだったのに、どうやら受けた側は火がついてしまったようで。
「ほう…やるじゃねぇか。」
「!!」
ニヤリと意地の悪い笑みに、思わずぞくりとする。
人懐っこい目が急に獰猛な獣のような何かに豹変し、肩を掴まれる。
「折角白雅ちゃんからキスしてくれたんだ。それ相当の“お礼”は必要だろ?」
ニヤリといつものような笑みを浮かべていたが、その笑みは今迄見たより凶悪な気がした。
だって…普段だったら、“ちゃん付け”なんてしないし。
Re:災難
(や…っ!だ、駄目でしょ…こんなの許されるはずが…!)
(気にすんな。手取り足取りお礼してやるぜぇ?)
(な…た、助けてー!!)