地獄と云う世界に平和はない。
いや、番人に追われなければ平和なんだろうけど、私が言うのは別の意味で。
「さて、と。今日は寝よ…。」
誰もいなかったし暇だったために第二階層の誰もいないところで眠りに就いた。
変わりもしない静かな地獄と云う世界。変わらないのは咎人の断末魔ぐらいだろう。
しかしこの場所は静かで好きだ。
暫くして眠りに就けば、影がひとつ此方に向かって飛んでくる。
その影の正体はコクトー。
眠りに就いた白雅をコクトーは覗き込むようにしてみるが、依然と眠りに就いたままだ。
「なァ、白雅。」
「…。」
「起きろよ、白雅。」
「………。」
何回も声を掛けても小さく寝息を立てて呼吸はゆっくりで、深い眠りに入っていた。
起きないままだったため、白雅の耳元で、一言。
「このまま寝てっと喰っちまうぜ?」
余りに白雅にとって利益を生まない。
(というより、コクトーにしかメリットはない)
そのためか、深い眠り出会ったにもかかわらずクワっと目を開けて目覚めた。
勢いも付けて上半身を起こした。
「!…い、今。なんだかとても不吉なものが聞こえたのですけど…。」
「ククッ、なぁ。白雅。」
「ん?ちょ、いきなり引っ張らないで…!」
引っ張るな、と云ったのは白雅自身の胸に繋がっている鎖のこと。
それをおもむろにコクトーに引っ張られれば白雅もコクトーの方へいくしかないのだ。
かちりと細めた菫色の瞳を視線が絡む。
視線が絡んで思わず目線を反らそうとしたが、顎を掴まれて真正面に向けられる。
向けられてどうにもできない時にコクトーから一言発せられた。
「キスしてみろよ。」
「…はぁっ?!」
「じゃねぇと離してやんねぇぜ?」
「っ、わ、わかった…!するから…!」
ほぼ脅し文句のような科白に頷くしか他になく、
イイ子だと手を離して貰えればコクトーは満足げな笑みを浮かべて白雅を舐めまわすように見る。
あの視線の正体を知る白雅にとって、キスをしようとしなかろうと、
白雅自身にとって不利なことは変わりないというのに。
「さぁ、やってみろよ。」
「…うっ。」
まじまじと見られる視線に思わず反らしたくなるが、おずおずと視線を何とか合わせようとする。
もうひとりの彼が露わになった所為か、霞色の瞳は小さい。
しかしそんな彼にこうも真剣に見つめるのは恥ずかしかった。
「さぁ、どうした?勿論白雅からだぜ?」
「…ねぇ、」
「あ?」
「どうして…いきなりキスしろ、っていうの?」
「そりゃ白雅からのキスは中々ねぇしな?」
いつも不意打ちでキスをしてくるのに、まさかするように言いだしたからだ。
そして恐る恐る理由を訊いたが、自分からのキスがないからという答えだったからだ。
「…それだけ?」
「だったら、こうも付け足してやろうか?」
「?」
ぐいっと鎖を掴んだまま彼から近寄って、真剣な瞳を帯びて一段と低い声で一言。
「白雅のキスが欲しくなった。」
その一言が、余りにも、強烈で。
白雅の燻っていた感情が、どくんと大きな鼓動をあげて。
どきどきと鼓動が煩くて息が止まりそう。
情熱な求め方をされれば、断ることもなく小さく頷いた。
「わ、判ったよ…。するから目を瞑って。」
嬉しい気持ちもあったけど、やっぱり恥ずかしいから。
菫色の瞳が見れないのは少し残念だけど。
ちゅ、と触れるだけのキスを返したら、お返しに濃厚なものが返ってきた。
Kiss,Me!
(なっ、な…!結局コクトーからするんじゃん!)
(足りねェからに決まってんだろ?だったらこのままヤっちまうか?)
(や、それはダメっ!コクトー加減しないんだもの!)