白の愛し方

途方もない、マイナス世界。
生前のときと比べたら、どちらがより心地悪かったのだろうか。


なんて思っていたけど、今はそんなのはどうでも良いとまで思ってしまう。
第二階層でお決まりの場所で呆然と見つめていると、見慣れた影を見つけた。

地獄、という世界を回る際になんだかんだで一緒にいる彼だ。
コクトーの、聞き慣れた声で、私の名を呼ぶ。



「なぁ。白雅。」
「ん?なぁに?」



程良い低さのトーンで呼ばれればそちらの方に視線を合わせる。
人懐っこい菫の瞳とそしてすらりとした長身が視界に入る。

そんな彼が、自分と(恐らく)恋仲のような関係であることが不思議だ。
恋仲?少し違う気もするけれど。



「ちょっとこっちに来いよ。」
「えっ…あ、うん。」



言われるがままに頷いて起きて近づくと、ぎゅっと抱きしめられた。
余りに急なことで驚きはしたけれど、いつものことながら、コクトーは離してくれる気配なんてなかった。



「ちょ、ちょっと!コクトー…!」
「あったけぇな。白雅は。」

「……え?」



しかしその抱き締めるということは、乱暴にではなく、あったかくて優しくて。
まるでその感覚は優しさに包まれたかのように、労わるように優しくて。



「人肌がこんなにあったけぇとは思わなかったな。」
「そりゃ、私たち死んでるけど。人間だもの。」



生前から咎人になるまでの長いこと。
人のぬくもり、というやつを私も忘れていたからだと思う。

だからだろうか。コクトーの言うことも判ってしまうのは。



「…白雅。」
「ん?なぁに?」

「もう少し、こうしてっていいか?」



珍しい申し出にきょとんとしてしまった。
クスリと小さく笑みをこぼしてしまい、抱かれた手に重ねて手を合わせる。



「珍しいね。いつもは許可なんて求める前に抱きつくのに。」

「…で、良いのか?」
「私が今迄断ったことある……、あったかも。」



似たようなことを何回もあったからか、若しかしたらとクスクス笑う。
いつもいつも急な事ばかりだったが、今日は珍しく思えた。

いや、本当に。



「なぁ?良いだろ?」
「うん。折角コクトーからの申し出だし…。」



『なら、決まりだな?』といってはぎゅっと更に抱きしめられる。
慣れてしまった・というのもどうだけど、この両腕で抱きしめられるのは何処か心地いい。

その感覚を覚えたくて、手を重ねてきゅっと抱き返した。



「ねぇ、コクトー。」
「…なんだ?」

「あったかいね。」



地獄という世界で似合わないほどに。
眩しく暖かい笑顔が、コントラストのように強く映えた。






白の愛し方
(で。いつまでこうしてんの?)
(そりゃ俺がその気になるまでだな?)
(だ、だからって…流石に恥ずかしいよ)