彼の愛し方が優しさならば、
彼の愛情は一体なんだろうか。
いつもいる第二階層から少し下の第三階層。
特に移動する意味はないんだけど、何となく。
鳥居の並ぶところをゆっくり歩いて、それを抜けると見慣れた影。
その影は、いつもの影ではなくて。
もうひとりの、影。その名を呼びたくて、軽快に走った。
「ねぇっ!コクトー。」
「あ?」
コクトー、と呼ばれた男が振り向けば白雅はぎゅっと抱きつく。
いつも見る彼とは違うのは、今回は珍しく素顔を晒していたから。
普段覆われている黒い布の下はミイラ化しており、
見た目はホラーというかグロテスクを想像させるが、彼女は気にすることもなく抱きしめていた。
「…いきなりどうした、白雅。」
「んー?何でもないよ。唯、こうしたかっただけ。」
白雅はケロッとした表情でそっと背中を撫でる。
水上白雅と云う人物は、彼に恐怖することはなかった。
それが故に、出来ることである。
「…わかってんのか?こっちの“オレ”はどうか。」
こっちの“オレ”とは今の姿。つまりは本性のことだ。
綺麗な菫色には狂気を孕ませていて、優しい声色には艶を感じさせる。
危険で、危なくて、いつもの彼とは違う色気を放つ。
(と云ったものの、それは本当に刹那的で大体は危険が表に現れているが。)
しかし、ここの。水上白雅は彼の本性を知っている。
元々最下層に行ってしまったのを迎えに行った際に見てしまったのだ。
最初は驚きはしたものの、それも彼自身だと受け入れたのだ。
「うん。だからこうした。コクトーが嫌なら素直に離れるよ。」
にこっと、いつもの彼女の笑みを浮かべた。
そうすれば意外そうに見てきたが、ニヤリと笑みを浮かべた。
その笑みはまるで、悪人のようだ。
(いや、咎人の時点で悪人ではあるんだけどね。私も同類だ。)
「クッ、上等だ。」
「きゃあっ!?」
後ろから抱きついていたのに、あっさりと逆転され、そのまま地面に押し倒される。
その隙に彼の鎖で腕を縛られて、更に跨って。
ほんの一瞬、自分のしたことを後悔した。
「ちょ、ちょっと待って…!このテは駄目だって!」
「オレに愛されてェだろ?」
「そ、そりゃ…愛されたいけど…。」
コクトーがどちらの姿でもコクトーであることに変わりはないから。
だから、愛され方が違くても、目の前の彼は彼であることに変わりはない。
愛されたい、という言葉に思わず肯定するとコクトーがするりと手袋越しの右手で撫でてくる。
撫でる光景にどくどくと鼓動が荒い中、覗かせている瞳は何処か危なげで。
「あ、あの…コクトー…?」
恐る恐る名前を呼べば、ちろりと舌舐めずり。
唯でさえ荒い鼓動が、更に荒んでいった。
「だったら、お互い愛し合おうじゃねェか。」
この後の、荒くも深く蕩けるようなキスによって。
開始を告げたのだった。
黒の愛し方
(だ、だからって…何で毎回このテなの…。)
(そりゃ白雅をオレ色に染めるためだしな?)
((…とっくに染まりきってるって言うのに。))