To Heart


ひとり、最下層の奥で。
ひとり、想い人を想い。

心なんてとっくに捨てたかと思っていたのにね。
いざという時には怖くなって逃げてしまったの。


可哀想とか思わないでね。私もアナタも傷つくのよ?




「コクトー…。私ね、腕も足もみんな白骨化してきたよ。」



小さく言葉にする。白雅の最終通告。
咎人の着物の下は黒い布で覆われて、気付いた時にちらっと覗いたらミイラ化で止まっていた部分まで骨となっていた。


折角ひとりに慣れてきたと思っていたのに。
アナタという存在を知ってからは、光を見てしまった気がする。

その光と思っていた者は、ささやかな幻想だというのに。
それに縋ってしまった私はなんて愚かなのだろうか、と後悔する。


知る前までは、死にたかった。でも今は、死にたくない。
でもそうだと気付いた時には何もかも遅かったの。


地獄、というありもしない幸せを知ってしまったときから、永久の疵を負う。
肉体なんかじゃ、魂なんかじゃ、癒えないモノ。



「…っ…で、きること、なら…会う前に死にたかったよ。」



知る前だったら、死ぬことを望んでいたのに。
今になって、死ぬことを躊躇するなんて。



「ねぇ、こく…。」



どさ、と何かが落ちた。同時に肩が急に軽くなった。
ちらりと軽くなった左腕を見れば、肩の先にはある筈の腕がなくなっていた。

視界を下に落とせば、あったのは腕。
さらさらと砂になって溶けていく、自分の腕。


カウントダウンが始まる。
そうだと解れば、激しく心が揺り動かされる。

死にたくない死にたくない。そればかりが、白雅の心を動かして。
そして、彼女なりの遺言を残す。

でも、最下層の砂漠だから、時間が経てば風がすべて浚ってしまうのだけど。



『しってた?』

『私ね、君のこと好きだったんだよ。』

『コクトーには、告げないつもりだったんだけど。』

『今だから教えるね。』

『ありがとう、そして、』



声には出さない。きっと言葉として、声として残してしまったら後悔すると思ったから。

どさっと、鉄でも落ちたように崩れ落ちていく片脚。
でも不思議と痛いとかそんな感触はない。

あぁ。もうそれぐらいに人間から離れてしまったんだね。

あぁ、もうそんな時間なのか。
そうだよね、あれから随分死んでは生き返るを繰り返したんだもの。



「白雅!!」
「…こく、」



声がした方に向かうと、見慣れた姿。
薄汚れた咎人の着物を纏い、顔の右半分はミイラ化を隠すために黒い布で覆われている。

その見慣れた彼の名前を言う前に、ぎゅっと力強く抱きしめられる。
今の白雅の身体は非常に弱々しく、そして脆い。

男の力だと、あっさりと折られてしまうぐらい。



「何も言うな。」
「……。」



ねぇ、この時だけ時間を止めてよ。
砂となって崩れる運命は受け止めるから。お願い。
ほんの少しの、あり得ない世界での我儘を受け入れてよ。

それなのに、私の身体と心と共に砂時計のように溶けていく。



「俺がお前の心境を知らねぇとでも思ってたか?」
「…?」



お願い。これ以上別れた時の悲しみを残さないで。
と、声を出そうとしたら。降りかかった口付け。

深くもなく、浅くもない。それでも優しさで満ち溢れていて。



「俺もお前が好きだ。白雅。」



私に言葉として残さない代わりに、言ってくれた言葉。
欲しかった言葉。だけど、この返事は頷き一つ。

だってね、言葉に残したら傷つくのはアナタでしょ?
知ってたから。


だから、言葉にしない代わりに口ぱくで伝える。



『ありがとう。だいすきだよ。』



世界で一番の笑顔を返事として。白雅は溶けていった。
世界の一部として、世界の一部となってアナタを見守るから。

この空で、見ているから。





To Heart
(何時かどこかで会えたら、その時には声にして言うよ。)


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リクエスト夢でした。