天針のゆくえ


時々思い出す、過去。
それを本当だと教えてくれるのは、もうひとりの私。
そして、もうひとりの私に気づかせたのは、彼。



XCUTIONの修行は相変わらず体力を使う。
それに連日続けは肉体そのもののダメージも結構残ってしまうらしい、とか。

そんなわけで、水上白雅が此方に来たのは久しぶり。
と言っても、二日か三日空けていたくらいだが。


明日は一日ゆっくり出来るお休みの日、というわけで。久々に酒に楽しんでいた。
…但し、彼女が酒豪であるが。



「ふ、はっ。今日は此処までにしておきます。」



何杯目か判らぬほどに飲みに飲んではグラスを置き、くっと身体を伸ばす。
普通ならばこの時点で瞑れるだろうが、彼女の表情は至って普通だった。

白雅は『少しあったかいくらい』とだけは話していたが。
それを横で見ていた彼もまた、カランとグラスを鳴らしていた。



「カシス・リキュールを制覇、か。飲みすぎじゃねぇか?」

「いやいや。ブランデーとかウイスキーの方がどう考えても度が強いじゃないですか。
私は割って飲んでいるんです。銀城さんはロックで飲んでいるでしょ?」



結構な量を飲んだ割には、彼女は一切酔う気配がない。
カシス・リキュールは少量でいいし、その分度も少ないのだ。
お酒の割には飲みやすく、ついつい飲んでしまう。

それに比べ、少量ではないと逆に強いのが彼が飲む類のもの。
ウイスキーやブランデーものには手を出さないが、きっと白雅の好む味ではないだろうとは薄々思う。
(それに、銀城さんだとロックで飲んでいるし)



「俺はそう簡単に酒に溺れねぇんだよ。」
「でも沓澤さんに止められているんでしょ?でしたら素直に止めないと。」



『私みたいにさ。』と言ってカウンターテーブルに添えられている椅子から降りる。
(いや、これでも先程飲み過ぎと止められてはいたんだけどね)

矢張り大量に飲んでいた割には身体はふらつく様子もなく、平常のままだ。
強いて言うなら、彼女の内側がほんのりあったかいぐらいで。

そろそろ帰らないと、と腕時計を見ればもう少しで針がてっぺんになる頃。
荷物を纏めているそんな中、彼が彼女に向かって一言。



「なぁ、白雅。」
「…なんですか?」

「送ってやろうか?」



今はもう遅いからな、と続けて何処か挑発染みた表情。
溺れていないと入ったものの、酔いもある所為かどこか艶っぽい。

但し、白雅の中では下心があるようにしか感じないためか警戒の目で睨みつけたまま。



「…酒の勢いで家にあがりこむようなことしないで下さいよ?」

「判ってる。そもそもお前がそれを許さねぇだろ?」
「………でしたら、…いいですけど。」



流石に例の伝説を目の前で見ていたからか、そうカマを掛けてくる。
それが伝わったようで、仕方ないと頷く。

(確かに、家にあがりこんで下心を実行させるとなれば全力を持って投げ飛ばすだろう。
その為に完現術の力を使うのもどうかと思うが、彼ならおそらく死にはしないだろうし)



「一応警告しますけど。
上がりこんでもそのまま寝てしまうから入らないで下さいね?」
「なんだ?その言い方は“上がってくれ”としか聞こえねぇぜ?」

「っ!下心見え見えなんだ!破廉恥がっ!」



この後、本当にあがりこんだのかは。二人しか知らない。






天針のゆくえ
(で、ですから…!その破廉恥な話はやめて下さい!)
(俺は本心しか言ってないけどな?)
(…耳元で言う時点でアウトですけど)