災いの一言より



今日はいつものように学校をサボった。
いや、サボったと言うよりは早退した。いや、これも違った。

今日の授業がたまたま休講だったのだ。
それを知らずに来てしまい、その知らせを見ては落胆しつつ最初の授業を終えて早帰りといったところだ。

今は丁度お昼。いつもなら食堂で済ませるが、生憎早すぎる昼食もどうかと思っては後にした。
何を食べてもいいし、久々に何処かで外食でもいい。



「おい!てめえっ、待ちやがれ!」
「?」



後ろの方から穏やかではない声が聞こえ、思わずくるりと振り向く。
鞄を必死に持って走る男と、その後ろでは前の男を追うように走っている男が居た。

恐らく鞄を取られて、それを追う絵なのだろう。
まぁ、こういったことには関わらないのが吉だ。そうしよう。

とか考えていたが、後ろに居た男が私の存在に気付いたのか息を上げながら声をかけてきた。
(あーあ、関わらなきゃ駄目なのか…)



「おい嬢ちゃん。そいつ捕まえ‥」
「あぁ?!なんだクソガキ。殺されたくなきゃそこどけ‥!」



気にしないつもりだったが、前言撤回だ。
さらっと言う言葉が人を傷つけるとは言った物だ。

多分、今私怒ってるだろうし。
声色を変え、鞄をその場に置けばドスの聞いた声を出して、おもむろに足を引っ掛けた。



「訂正しろよ。」
「なっ?!」



足を伸ばし、男の足に引っ掛けてすっ転ばす。
唯でさえ走っていたのだから、足元を奪われて転倒した。

男は痛がっては物凄い形相をしては睨みつけていたが、私はイラつきの方が強かった。



「私はクソガキじゃない。ちゃんと成人してるから。」
「てめっ。何しやが‥。」



ナイフを取り出し、刺そうと襲い掛かるが簡単に避けては腕を掴む。
その腕を掴み、容赦なく、一撃で、一気にたたみかける。



「それはこっちの科白だ。」



相手の手を取り、思いっきり背負い投げ。
細身の腕で投げられたチンピラは驚き、更に受け身を取れなかったからかモロに背中を強打したらしい。
酷く痛がっていた。



「私はこれでも古武道の使い手だ。たかがチンピラ一匹相手にならんよ。」



『だが、こんな小物に古武道を名乗っても意味はないか』とひとりごちるが、
仁王立ちの状態で凛とした瞳を帯びさせる姿勢はまるで勇者のよう。

ぱんぱんと手を軽く払いながら、白雅はカバンを拾い上げた。
その中に入っていた携帯を開き『110』のボタンを押して電話を掛ける。



「あー‥もしもし?お巡りさん?
今悪者捕まえたんで来て貰ってもいいですか?場所は‥‥」



場所を伝えつつ、倒した犯人の男を逃げないように縛り付ける。
その時に追っていた男が私の意外すぎる(と思われた)光景に、ひゅう、と口笛を吹いて近づく。



「お前強ぇな。」
「はい?」



投げ飛ばされた男が気絶してしまったらしく、追っていた男は落ちていた鞄を拾っては軽く払う。
遠くで重なっていたように見えたからよく見えなかったが、その男はガタいが良いようで大きく見えた。

髪をオールバックにしていて何処か野性的、どちらかと言えばワイルドなタイプ。
そんな人が髪を掻きながら笑みを浮かべていた。



「助かったぜ。最初はあんな無茶なことを言っちまったが‥。」
「最近物騒ですからね。これから気を付けてくださいね?」



盗人を思いっきり投げ飛ばしていたからか、すっきりもしたようでドスの利いた声ではなくなっていた。
いつもの、デフォルトに少し上乗せした“外での水上白雅”に戻っていた。



「お前にお礼がしたいんだ…。何がいい?ラーメンでも食おうぜ。」
「ラーメン‥‥。」



ラーメンの言葉にきゅう、と小さく音が鳴った。
お昼のことを思い出したのだ。そういえば、何を食べようかと考えていた所だったのを。
しかも、少し一悶着があったからお昼として食べるなら丁度良い。



「いいですよ。丁度お昼考えてたので。」
「なら決まりだな。行こうぜ?」



ほぼ初対面のはずが、まさかの食事のお誘い。
(いや、実際初対面なんですが)

非常にびっくりしたが、何も考えていなかったために取り敢えずOKの返事を返した。
それが、水上白雅と銀城空吾との出会いだった。






災いの一言より
(にしても…“アレ”は凄かったな。)
(“アレ”?)
(背負い投げのお前だよ。まるで別人だったぜ?)