出逢は八当たり
最初は、唯の八つ辺りだった。それなのに、それなのに。
何で、こうなったのかよく解らなかった。
誘われたラーメン屋に行き、注文をして届いたラーメンを唯唯啜る。
隣に居る男は、私が盗人を投げ飛ばしたことによって鞄を取り返せたお礼にと云いだした男。
恐らく4つか5つは上だろう。髪をオールバックにして何処かワイルドな雰囲気を出す男。
何て呼べばいいのだろうか…おじさん?
「ん、旨い。」
「だろ?やっぱ旨いよな。」
結局今はこのようにおじさん(…と呼んでいいのだろうか)のお誘いに乗ってはラーメンを啜っている。
今まで食堂ではパン系ばかりを食べていたからか、麺類を胃に通すのが久々に思えた。
「でもいいんですか?ホントに奢られちゃって‥。」
「あぁ、鞄取り返してくれたお礼だしな?」
いや。それはちょっと違うよおじさん。
確かに鞄を取り返した事実は当たっているが、九割の確立で八つ当たりをしただけなんだけどね。
ちらり、とおじさんの目が此方を向く。
最初にあったあの懐っこい感じではなく、何処か色を帯びたような。
「にしても‥。」
「はい?」
「いや、気にすんな。なんでもねぇ。」
「‥‥‥。」
何かを言われそうと構えていたが、それを何でもないと打ち消されてしまう。
白雅は正直、八つ当たりの際に現れた“性格”のことを突かれるのと思っていたのだが…。
あの性格は大体八つ辺りとか怒りの感情で現れることが多い。
それを隠すために、普段は人と関わることを極力避けようとする。
それなのに、唯の八つ辺りからこのようにラーメンをご馳走になるなんて、思いもしなかった。
「本当強ぇよなぁ、お前。この細腕で男を投げ飛ばすとはよ…。何かやってたのか?」
「えぇ、実家が古武道の一家なの。
師は私の家族で父が柔道と空手の達人で母は弓道。祖父が剣道なの。」
そう話せばおじさんは『そりゃ強ぇ訳だ』とごちる。
家は古武道の家。
古武道といっても、空手は勿論のこと、柔道剣道弓道と多くある。
どれでもそれなりにこなしたし、あとはどれを特化させればいいのかを決めればいいだけ。
しかし、白雅自身はどれも並みでいいのに、なんて思ってたりする。
「あの、おじさん。」
「おじさんじゃねぇだろ。どう見ても。」
「だっておじさんの名前知らないもの。お兄さんって感じより兄貴って感じだし。」
「あー‥。そうだったな。」
おじさん…としか形容する言葉が見つからなかった、といえばウソになる。
実際私をそこまで年齢は離れていないだろうし。
しかし、初対面の人にお兄さんだの兄貴は流石に失礼だと思った。
(いや、お兄さんはナシと思ったことは秘密だ。)
「あ。それとも“人に名乗る前にはまず自分から”かな?」
「流石古武道の娘だな。」
「あはは‥家が家なんで‥。」
家の教えには程良く従順していたのだろうと、白雅自身でも思う。
少なくとも、幼い頃は今より従順だったし、技もまともに覚えたのはその頃だ。
先程の盗人事件でも、それが幸いして捕まえれたわけだし。
(いや、厳密に言えばガキ扱いされたのがムカついて八つ当たりしただけなんだが)
「申し遅れましたが、私は水上白雅と申します。」
「ご丁寧にどうも。俺は銀城。銀城空吾だ。」
「じゃあおじさん、じゃなくて銀城さんですね。」
「おじさんは止めろよな。白雅。」
これからは言い方にも気を付けなければ。
しかし、名前を名乗れば名字ではなくまさか名前で呼ばれたのは意外だったというより驚いた。
この時、白雅は少しばかり思った。
これから先、この男は何かしら関わりそうだ、と。
出逢は八当たり
(ふぅ、ご馳走様でした。)
(白雅。ちょっとこっち見ろ。)
(ん?)