ヒカリトカゲ


人はいつだって裏表。
光と影の部分が存在する。



「今日は本当にご馳走様でした。美味しかったです。」
「だろ?」



今はお礼にとラーメンをご馳走してもらった帰りだ。
おじさん・・・もとい、銀城さんは最初胡散臭さを感じてしまったが、
食事をしたからか気さくで意外に優しいことに気付いた。



「でもおじ…銀城さんもよかったですね。鞄取られずに済んで。」
「まぁな…、っておじさんはないだろ?」

「何かね。おじさんとかおっさんとか‥。それっぽさが出てるの。」



クスクス笑ってると、少し離れた位置で何処か見たことがある光景。
奥で『泥棒』だの叫んでいる声が聞こえて、何やら引っ手繰ったのか逃走する光景が見れた。
(アレ?銀城さんと会う時と同じ光景が見えるよ?)


此方に向かっていることもあって、それを見す見す見逃す事なんて、白雅には出来なかった。



「…ねぇ、銀城さん。」
「あぁ、助けるつもりなんだろ?」

「…判るんですね。」
「まぁな。」



フッと不敵な笑みに思わずどくんと妙な何かが動いたが
通せんぼになるように妨げれば、男は仕方ないと一旦止まるがナイフを突きつける。



「はい、そこまでだ。」
「死にてぇのか?!さっさと退け!」

「待ちなさいよ。さっさと返したらどう?勝てないんだから。」



流石に色々切羽詰まっているようで、ナイフを振り回すものだから迂闊に入ってしまう一閃。
それを瞬時にバックして避けたものの、切れたのはよけきれなかった髪の数本で。

ほぼ無傷で済んだ。
が、彼女の心境はとても穏やかなものではなかった。



「何だてめ…、?!ガキの分際で…。」
「‥‥‥はい?」



あーぁ、タブーを犯したか。本日二度目の沸点突破。
さっきまで機嫌よくなってきたと思っていたのに‥‥。


『こりゃ、お仕置きがいるなァ?』


――――どくん。

あ、れ‥‥?おかしい‥――。

意識が‥遠く‥‥――――。



「そりゃ、誰のことだ?」
「あァ?!なんだ‥‥ぐぁああっ?!」



腕を掴み、女とは思えないほどの握力でぎちぎちと握る。
断末魔とも取れそうな状況により、男が持っていたナイフは激痛のあまりにぽろりと落ちて虚しい音をたてた。



「あーあ。死んだな、コイツ。‥っ?」



銀城もまた、白雅の違和感に気づく。
先程の時よりも、圧倒的な殺意が満ちていく。

むしろ、その奥を出さなかった彼女が。
徐々にあげていく“ソレ”



「だから言ってんだろ。あんた程度には勝てない、って。それにだ、」
「て・・・めぇっ。」



白雅とは、また違う意思が体を動かす。

意識だけ隔てられ彷徨いたまま、怒りの沸点はこんなに低かったんだろうか、とつくづく思ってしまう。
(いつもなら、こんなに怒ることなんてないのに不思議な日だ)

まるで、誰かによって煽られるように。

―――どくん。
―――どくん。
―――どくん。

そして、更に鼓動が大きく動く。
血が沸騰するような“何か”が、彼女を大きく揺り動かす。



『“コイツ”を余り怒らせてくれんじゃねェよ。』



一瞬にして目つきが鋭く変わり、何か違う力も上乗せされたかのようにリンクする。
そして、いつもの、唯の。背負い投げのはずなのに。

ドォン!と凄まじい音がゆらりと空間を振動させる。
空間そのものすら動いている?イヤ違う。
白雅自身にもよく解らなかった。

まるで自分自身が分裂でも起こしたかのように。
そして白雅の動きにシンクロしたかのように。



「はぁ…はぁ…一体。何が…?」



漸く呪縛のようなものが解放されると、白雅はぐったりと立つのが限界になっていた。
どうしてか、物凄く疲れが出る。
意識すらも朦朧していく。

段々目の前が暗くなる直前に、彼の声がする。



「水上白雅矢張り、“完現者”か。」
「‥銀城、‥さん‥‥一体‥なに、」



震えていた空間がやっと落ち着きを取り戻すと、気を失うようにその場に倒れた。
気を失い倒れていく少女に向けてひとりごちる。

『だが、まだ覚醒にまで至ってねぇか。』と呟いては彼女の元に近寄る。

銀城はうつ伏せ状態の彼女を一端仰向けにさせ、頬に触れてみるも反応はしない。
しかし脈はあるようで、唯気絶しただけだと解ったよう。
そのまま倒れている彼女を姫抱きする。



「っと…、どこかに…。お、あった。」



抱いたまま白雅の鞄から彼女の学生証を見つけ、そこに記載された彼女の住所を見つける。
それを軽く確認しては、また眠った白雅の髪を愛おしそうに撫でる。



「へぇ…こっからだと意外に近いな。」



一端場所を確認してすぐさま学生証を鞄に戻す。



「さて、と。面白ぇモン見つけたし‥。こっからどうするか。」



ニタリと笑みを浮かべたまま、そっと額に口付けを落とす。
このまま唇も奪ってもいいが、はまた今度、とそっと触れつつ彼女の家にまで運ぶのだった。






ヒカリトカゲ
(さて、次はどうやって接近するか…?)