現、夢か現実か



現実だと思っていたが、
それは覚醒によって夢を知ることになる。

しかし、それは本当に“夢”であろうか。



柔らかい光によって、沈んでいた意識が段々和らいで覚醒に近づく。
ゆっくりと目を開ければ、目の前は見慣れた天井。

そして、耳には目覚ましのアラーム。



「ん‥‥?朝‥?」



コンポに設定したアラームの音楽が、部屋の空間に広がる。
時計をちらりと見ればいつもより少し遅い時間だった。

今日は授業が休みであると以前に知れたので知っていたのだ。

音楽に耳をすませながら、洗顔を手短に済ませる。
食パンをトースト機に入れて焼くのをぼんやり待ちながら、珈琲を淹れる。
拘りのインスタントコーヒーを愛用している大きめのマグカップに淹れてお湯を注ぐ。

空間を彩ってくれるのは、コンポに流れる音楽だけだ。



「そっか‥‥夢、か?」



“夢”と呟いた事は、てっきり現実だと思っていたことだ。
ゆっくり珈琲を飲みながら、ふと現実だと思っていたことを思い出す。

謎のおじさん(確か、銀城と名乗っていたっけ)の引っ手繰られた鞄を何とか取り返して。
そのお礼にとラーメンをご馳走して…。

その後の記憶がない。


ピンポーン。
夢の内容を打ち消すかのように、インターフォンの音が鳴る。



「誰だろ?‥はいはーい。」



矢張り、夢なのだ。
何分その先が覚えていないし、と決めて取り敢えず来客者のいる扉を開ける。


ガチャ。と鍵が開いてゆっくり開けば、予想外の相手が目の前に居た。
現実だと思っていたことが、夢だと思っていたことが。



「お、起きたか。白雅。」
「‥‥はい?」



何度目の前の状況を疑ったか。
夢の中で会った人と同じ人。その人が目の前にいた。



「あれ?…夢の‥おじ、さん?」
「おじさんじゃねぇだろ?どう見ても。」



『しかも夢とは何だ』と続けて言われれば、あの夢はやっぱり現実であったと思い知る。
確か、銀城さん。だったと思う。

しかし、何故か片手には布で覆われた何かを持って。



「‥な‥なんで?…銀城さんが此処に…。」
「あー‥話せば長くなるんだが、」
「じゃあいいです。」



気になることはたくさんあるが、話せば長いというために聞くのを止めた。
(いつかでいいよね、いつかで。)



「あ。折角ですから上がりませんか?珈琲くらいは出せますから。」
「そうか?」



それなら邪魔する、と言っては部屋に入る。
そして『食うか?』と言われて布で覆われた正体がラーメンと判れば珈琲の代わりに烏龍茶を出した。
(いや、きっと合わないだろうし。にしても持ち歩くか?ラーメンって。)

しかし朝からラーメンは流石に身体にシビアだと思っていたので遠慮した。
そしたらマイ箸を取り出しては、テーブルに陣取って食べ始めた。



「へぇ‥。独り暮らしか。」
「はい。今日は授業はお休みなので…。」



ラーメンをずるずる食べながら部屋を軽く見渡す彼。
(あんまり散らかしてないけど、若干恥ずかしいわ…。)

来訪者である銀城さんが持参のラーメンで食事中の為、
取り敢えず丁度焼けたトーストにバターを塗ってはもさもさと食べることにした。


暫くして漸く食事を終えれば、取り敢えず訊くことにする。
わざわざ私の家に来たぐらいなのだから、何かあるはずだろうし。
(家の場所とかは後に訊こう。うん。)

丁度空になった珈琲を淹れ直そうと、白雅はスッと立ちながら問いかける。
銀城もラーメンを食べ終えたようで、頬杖しては目で追っていた。



「あの?銀城さん?」
「なんだ?」

「何で‥今日は‥。」
「訊きたいか?」



ニヤリなのかニタリなのか、何かを考えついたような笑みを彼は浮かべる。
その笑みにどくんと動揺してしまう。

動揺が仇になったのか、腕を掴まれて距離を縮めてくる。
そして私に何故かするりと頬に手が添うように触れられてびくっと震える。



「なぁ。白雅。目瞑れ。」
「?!は…い?」



この男が何を言い出したのか、よく解らなかった。
余りにも唐突で、余りにも不意打ちで。

いつものように目を見ようとするが、頬に触れられた手の感触の所為で時々泳いでしまう。



「いいから。ちょっと黙って目ぇ瞑れって。」
「……こう?」


意を決して取り敢えず言われた通りに目を閉じると、不意に唇に感触。
柔らかい何かを感じ、白雅が恐る恐る目を開けると目の前には銀城がいた。

結論から言えば、今キスをされている。



「んんっ…?!」



この事態に白雅は慌てて離れようとするが、銀城によって後頭部を押さえられたままのために離れられない。
暫く触れるだけの長いキスに息が出来なくなり、窒息しそうな状態になりかける所で漸く離れた。

酸素と求めるように繰り返し、ぜぇぜぇと絶え絶えになりながら呼吸を整えた。



「ぷ、は…っ!な、なな…何して…?!」
「くくっ、何顔赤くしてんだ?それとも俺の口から言わせて欲しいのか?」



『可愛いねぇ』とまた意地悪な笑みを浮かべては、唇に指で触れられる。
どくん、とまた鼓動が鳴った。



「わ…わ、私の…ファースト…キスが……。」
「あ?何だ白雅。初めてだったのか?そりゃ嬉しいねぇ。」



にやにやと笑みを浮かべたこの男に、白雅は唯唯顔を真っ赤に染めるしかなく。
それが次第に、わなわなと拳に力が入るのを感じた。



「は…、は…。」
「ん?」

「なに人の許可なしにキスしてんの!破廉恥な!」



賺さず腕を掴み、ドォン!という凄まじい豪快な背負い投げの音が、この部屋に響いた。
それなのに、この男がダメージが余り効かなかったのが白雅には少し不思議に思えた。



「っ、流石だな。こりゃまともに食らったら大変だな。」
「!なん、で…?」

「さぁな?なんでだろうな?」



ニヤリと銀城さんの不敵な笑みに、不意にドクンと鼓動が鳴った。






現、夢か現実か
(大体ホイホイするもんじゃないでしょ!こういうのは!)
(そりゃ俺が白雅ならしてもいいと思ったからだぜ?)
(え…。う、嘘でしょ?!)