白き宣誓布告



彼を黒と例えるのなら、私は逆なのだろうか。
しかし、彼女とて。白の裏があることを。



「まどろっこしい電話に…既に誰も住まなくなったマンション。
聞けば聞くほど胡散臭いわ。」



指名された場所を取り敢えずメモにし、
それを頼りに合う時間通りに向かってみるとひとつの廃ビル。

辺りを軽く見渡せば、この辺りは元々人気が少ないが、夜になると更に少なくなるようだ。
幾ら一人暮らしで誰も家には心配するものがいないとはいえ、夜に女性一人とはなんとも無謀なものだ。
(いや並大抵の奴らなら、何の問題もない私も私だが。)


「銀城さん…居るんでしょ?こんな時間に呼ぶなんて、余りによろしくないんじゃない?」
「ククッ…。相変わらずだな、水上白雅。」



人気の少ない暗闇の中、ぼんやりと古びた街頭の明かりによって人影が黒く浮かぶ。
あの昼間に出会ったような感じではなく、何処か奥がちらつくような。

あの時を白と例えるなら、今は黒に侵食されているに近い状態か。



「…この黒いカードについてだけど。」
「その話は、付いてからだ。」



そう言って、付いてくるように暗黙の指示が出れば仕方なくと付いていく。

そのまま付いて行くように中に進んでいき、
ひとつの扉が見つかればカードを渡して何かしらの打ち込みをすれば扉が開く。

扉が開けば、まるでお洒落のバーのような雰囲気が流れる空間だった。
中には執事っぽい人と、中学生くらいの男の子。スタイルの良い女性が部屋に居た。

マンションなのに意外と広くて驚いた、というのが本音だった。



「まぁ、座れよ。ある程度のやつなら出してやる。」
「え…と、じゃあ。珈琲で。」



益々胡散臭さが漂う。そう思いながらもソファに座って、辺りを見渡す。
珈琲の入ったカップがコトン、と置かれそのままゆっくり飲む。
(家のインスタントよりも、心なしか美味しく感じた)

色んな事を考えつつ辺りを呆然と見渡していると、銀城さんはソファにどすっと座り込み、軽く髪を掻きあげる。



「さて。水上白雅。」
「!」



あの時と、同じ。
真剣味を帯びた声色。目も表情もギラリと鋭い真剣さをまともに感じてしまい、身体が固まる。

変に緊張した。



「お前を呼んだ目的は白雅の完現術(フルブリング)を発現させることだ。」
「フル、ブリング…?」



彼の発言に早々に付いていけなくなり、それを丁寧に説明を受ける。
つまり、魂というのは人間だけではなくて、物や世界にあるものすべてにあるという。
(確かに。昔から長く使われたいたものは魂が宿るなどとか聞くし納得できる)

しかし、それを引き出すことが出来る人間は色々と条件があるようで。
その中でも。私にはその力は持っている。…らしい。

だが、私には判らない。
そもそも、そんな力の存在なんて知らないし、何故今になってなのだろうか。



「確か、私が銀城さんと同じ力を持っていて。それを発動させて…、でも…何で?」
「あー…お前は気付いてねぇだろうが、そのままにしておくと暴走の可能性があるからだ。」

「…ぼう、そう?」



暴走という穏やかでない言葉に、白雅は首を傾げた。
そもそも、暴走なんてことを私がしたのだろうか。いや、これからするのだろうか?



「暴走なんて…するもんなんですか?」



念のために恐る恐る問いかければ、銀城さんははァ、と溜息交じりに答えを返してくれた。



「そりゃこっちの台詞だ。
完成間近にはあるだろうが、あんな危なっかしい暴走はさっさとコントロールさせた方がいい。」



『しかもお前はコンプレックスを言われちまうとすぐしそうだしな』と銀城は心の中で留めておく。
二回ほど彼女を怒らせた様を目の当たりにしたが、二度目が何分酷い。

しかも話を聞けば白雅はコンプレックスを言われただけならいいが、その後に暴走するかしないかは判っていないようで。
それなら、と。修行の際にでも話せばいいだろうとそう思ったがためだ。


白雅は、呆然としながらも頭の中で整理して、ゆっくり口にする。



「えーと…つまり。私は恐らくその“完現術者”って力はあるけど下手をすれば暴走を起こす。
そうならないように、使えるようにして止める。…こんな解釈で大丈夫ですか?」
「あぁ、そんなモンだ。」



そうだと解れば、白雅は特に反対する様子もなく寧ろ積極的だ。
修行をすると言ってきょとんとはしたが、こくりと頷いた。

出された珈琲のカップに口を付けて飲みながら考える。

あの時は、偶然だろうが必然だろうが。
会えたということは奇跡に近いものなんだから。



「えっと…じゃあ。銀城さん。」
「ん?」



この力がなんのためだとか、条件はなんだとか。そんなことは知らないけれど。
“会えた”という奇跡だけは、信じてみようと思う。



「お手柔らかにお願いしますね?」



宣誓布告のような、笑みを浮かべて左手を差し出す。
判り切っていることである。

実際、宣誓布告のようなものだから。






白き宣誓布告
(…で、私の家が判った理由は?)
(そりゃ力尽きて倒れた時に、鞄を物色して学生証を見たからな。)
(…っ!ソレ犯罪ですよ!!)