姉、弟


世界を閉じるために、いつも身に着けていたものがある。
音を愛している証にとヘッドフォン。それと、“彼”の名が刻まれた。


今日は大学の授業を終え、その足でXCUTIONのマンションに向かった。
授業の所為でか、すごく眠い。



「ふぁ‥。眠い‥。」

「おい、白雅。」
「んぁ?」



ソファで軽く横になっていると、聞き慣れた声。
睡魔に負けそうになっているが、ゆっくりと目を開ければひとりの男がグラスを持って座る。



「今日の修行は終わったのか?」
「うん。まぁまぁ終わった。」



この男・銀城空吾。彼が私をXCUTIONに誘った男。
そして、私に完現者としての力が備わっているということを教えた男。

彼の話によれば、完現者は自分の身体で扱い、それ故に負担がかかるので鍛えなければならないとのこと。
しかし修行の内容は専ら体力を付けることと覚醒の為の修行だ。

まず先に体力作りのノルマを達成し、それが終わった途端に疲れが出てしまいソファで野垂れていた所。



「まぁまぁってな‥。」
「私、古武道何年してると思ってるの?その為の基礎は積み重ねてるわよ。」



眠さはあるので珈琲をお願いして貰れ、それをゆっくり飲む。
カフェインの苦さが、じわじわと目覚めさせていった。

そして彼女の一人暮らしをする前。
道場にいたころは、親に物凄くしごかれていたのを覚えていたのでそれなりには動ける。
それこそ長距離とかスクワットとか。足腰や腕力を徹底的にされたほど。



「‥にしても。」
「ん?」

「こんな細っちい腕でよく鍛えてんな‥。」



銀城さんはさり気なく腕に触れる。
確かに女性の腕は男性のそれを比べたら細いし、力を入れたら折れてしまうように感じてしまうだろう。

しかし、これでも鍛えているのだ。
見た目は女性をなんら変わりないだろうが、実際コレで背負い投げをしてるし。



「そう‥かな?男女の差じゃない?おじ‥、銀城さんはガタイがいい方だからその分の差もない?」
「俺は逆にそんなナリで投げ飛ばせる方が驚きだ。」

「あはは‥なんでだろうね?」



彼の前で二度ほど投げ飛ばしたのを目撃されたのもあって、思わず笑ってしまう。
(実は実家でそんな光景を見に見ていたから慣れていただけと言えるのだけど)

そんな中で、ふと二度目の会話が思い出す。

――――会話?
――――だとしたら誰と?

誰かのかわからないのに。
それがおぼろげな、根拠のないひとつの答えがある。


忘れてはならない、水上の家に生まれた私と。もうひとり。
それを言うはずなんてなかったのに、何故か口にした。



「…私には私が生まれる前に弟がいたんです。」
「生まれる前?」



もうひとりの私。それは兄か弟か判らないけど。
つまりは、双子として生まれるはずだったのだ。

いつも首にぶら下げていた、私のロケットペンダント。
ペンダントには写真はなく、代わりに名前が刻まれていた。

その名前は、弟の名前。



「はい。私と弟は…双子として、生まれるはずでした。
だけど、理由もロクにわからないまま、死んで生まれてきたのです。私だけは奇跡に生まれてきて。」



つまりはアレだ。私の弟か兄になるのか。彼は死んで生まれてきた。
私だけ、無事にこの世に生を受けられた。

理由は不明。というより、教えてくれなかった。
なんでだろう。なんでこの話を彼にしたのだろうか。


しかし、水上白雅という私は、弟の分まで生きるために日々強くなる理由なのかもしれない。



「だからかも。女である私でも十分に強くあれるように、と。
もしかしたら、それが私に完現者としての力が入っているのかもしれない。」



『まぁ、これは仮定の話ですけど』とひとりごちる。
時々こういった声のようなものが頭の中で流れるのは昔から。

だけど、こうして現れたのは初めての事象。
完現者としての力がまだ完成しきれないけど兆しと云う形だと、てっきり思っていたが。



「…だとしたら、だ。」
「ハイ?」



カランと、グラスを鳴らして真剣身を帯びたような瞳で、射抜く。



「あの時のお前はその弟の力かもな?」
「…え?」



そのあとに、銀城さんが教えてくれた。
私に別の人格のようなものが現れたようなことを。

そんな話を聞けば、ふと考える。
―――それはもしかすれば、弟の意識のようなものが完現術とは別のものが働いているのではないのかと。
―――だけど、これが弟の“意識”ならば。彼の分まで生きなければ。強くあらなければ・と思わせる。


それとも完現術とリンクをしているのかどうかは、謎だけど。



「でしたら、弟の為にも頑張らなきゃ。」
「よし、だったら。」

「俺が直々につけていやるよ。」



スッと立ち上がり、挑発じみた言葉に思わずぞくりとする。

そう言われ、終わったはずの修行なのに扱かれました。
(この時にサディストだと確信しました。)

シリアスっぽい展開は、見事に打ち砕かれました。
が、目的は生まれました。






姉、弟
(にしても、まだまだ足りねぇな。白雅。)
(ですが…っ、やり過ぎなんですよ!)
(俺が直々やるなら容赦はねぇぜ?)
((この…サディストめ…!))