知らず音物語
XCUTION入りしてから今日で一週間が経つ。
結局覚醒は上手く出来ない。
完現術の兆しだけでも偶然に出せたとはいえ、体力をごっそり持っていかれたのでそれを先ずは鍛えている。
水上白雅は家族四人をのひとりぐらし。いや、五人だ。
私には弟がいた。
しかし謎の出来事が弟という名もなき存在にして、私の意識の中で生きている。
「はぁ…完現術のために体力、っていっても。慣れているとはいえ、つらいな。」
「それが出来ねェと使う時間は短いぜ?」
「そりゃ…そうだけど。」
たまたま。いや、本当にたまたま。
例によって投げ飛ばした時に予想以上の力が現れてしまった、という事象。
コレを銀城さんは“完現者”と言っていたけど、彼女にはそんな意識はない。
否、“完現者”の事実すら初耳だったのだ。
あの後に黒い名刺の元、XCUTIONのメンバー入りを果たしたわけだが…。
それがうまく実現していないのが、今の問題だ。
「まず自分の完現術の見つけないと。愛着、ねぇ…。」
何でも、愛着とか普段身につけているものが完現者の発言を武器に変えるらしい。
銀城さんだったらクロスのネックレス。リルカならドールハウス(なのか?)とか。
修行をおこなってるが、その兆しは一切見えない。
あの時に持ち込んだものを色々試みてはいたが、完現者にまでは至っていない。
白雅が慣れないことで考えていると、答えなんて出るはずもなく困り果てた。
考えれば答えは出ず、寧ろ体力づくりのための修行の疲れがにじみ出た。
「うーん。やっぱり判らない!ごめん、疲れもあるので寝ます。」
「おい…。」
銀城さんの制止なんて聞かず、寝る体制に入る。
首にかけていたヘッドフォンを耳にかけ、音楽を鳴らす。
「…お前、いつもソレで寝てんのか。」
「ん?何を…すー……。」
答えも言わず、軽く寝息を立てた。
『寝るの早ぇな。』と内心ごちる。
そして銀城がソレと指したのは、ヘッドフォンのことだ。
黒と銀色がベースで、所々のアクセントには赤が入っている。
少し目立つデザインだが、彼女いわくお気に入りらしい。
「お気に入り…か。」
独り言を言いつつ、ふとあることを思い出す。
『いつも付けてるよあ。ソレ。』
『コレだけは“私の世界”に入りこれますしね。この時が一番落ち着くんです。』
『しかし、いつも修行の時は外してるよな。』
『そりゃ壊れちゃったら困るよ。もうこのデザインお気に入りなのに手に入らないんだから。』
嬉しそうに笑う彼女を思い出す。
そこから音が漏れるヘッドフォンが耳障りではなく心地よいものだった。
彼女の世界。落ち着く。お気に入り。
いや、意外なところだったのかもしれない。
唯、ソレに気づかないだけで。
「愛着しているモン…あんじゃねぇか。なぁ?白雅。」
今はすやすやと眠る姿は、どこかあどけなさを感じる。
起きたらコレのことを教えておくか。
いや、コイツなら気付いているのかもしれないな。
知らず音物語
(ふぁ…お早うございます。)
(あぁ、間抜けな顔でよく寝てたな。)
(なっ!見てたんですか?!)