思い出した思い出


それが、あんたと俺の約束。
私が、遠くに忘れていたこと。




あれから、更に二日経過する。
銀城が漸く媒介となる品を見つけたというのに、白雅は全く動かない。

痺れを切らし、いつまで経っても付けようとしないから。銀城は告白をする。



「え?ヘッドフォンを付けろ?」



白雅は耳を疑うように見た。
そりゃそうだ。大事なものだからこそ、しまっておきたい。


「壊れちゃったらどうすんのよ!?」
「安心しろ。壊すような位置に避けなきゃ壊れねぇだろ。」
「っ、でも…!」



例によってリルカの修行に入れば、銀城さんは本気らしくネックレスを大剣に変化させる。
何回か見た、あの戦闘スタイル。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべては、振り下ろす。



「だったら大事に守れよな。」



あぁ、やっぱり本気か。
溜息をつきたくなるが、そんな暇は与える様子はないようで剣を上から振りおろす。

当たらぬように避ければ、距離を縮めて横に薙ぎ払う。
(生身の人間に大剣振り回すか、普通…。)



「ったく…あとで終わったら投げ飛ばすからね!」
「そりゃ勘弁だな…っ!お嬢ちゃん?」



ギリギリの、禁句。これはあくまで賭けだ。
彼女の封じていたモノを取り出すためには、感情的にやりやすい彼女を躍らせるのが手っ取り早い。

そう考えた銀城の企みの元、白雅は冷静をあっさり捨てた。



『…ダメだって…言ってんだろうがぁああ!!』
「おっと。とうとう解禁か?」



ぶわっと、身体から何かが溢れだす。
あの時と、全く一緒。
唯一違うのは、白雅自身が鍛え上げたこともあって持久力がほんの少し付いた事ぐらい。

しかし、これではっきりした。
今迄散々挑発していったが、こんな変化は今迄の修行の時には見られなかった変化だ。



“コイツを余り怒らせるな。俺はこっち側に出るようなヤツじゃねぇんだ”

―――あんたは、誰なの?
―――私の…弟、なんでしょ?

“あぁ、そうさ。俺はお前の弟”

―――だったら…なんで?
―――あんたは、なんで、そっち側にいるの?

“そりゃ、そうだ。俺の身体は、とっくに死んでんだよ”

―――なんで、死んだの?
―――私とあんたは、双子として生きるはずだったでしょ?

“出産のときにな、襲われたんだ…『  』に”


ぐしゃ。
白雅の、心が軽く。崩れた。



「成程、ねぇ。決まりだな。」

「銀城、さん…。だめ…っ。持ちそうも、ない……。」
「!白雅…お前。」



息が荒い。鼓動が激しい。
どくどくとまるで心臓が耳元にあるように。

髪を荒々しく振れば、彼女の目つきが変わる。それだけではなく、空気まで一変する。
それは“あの時”と同じ。

もうひとりの、水上白雅が現れる時だ。



『俺は…っ!コイツの…』

「お前は…白雅じゃねぇな?」
『約束を守らなきゃならねぇんだ!』


一瞬にして距離を縮め、右手で薙ぎ払う。
一閃。何も持っていないはずなのに、まるで衝撃波にでも押されるような感覚。
そして、ガサガサとノイズが走る。

しかしそのノイズが取れると聞こえたのは荒い旋律。
これが、彼女の完現術。そうだと解ると一気に糸が切れたかのように空気が元に戻る。

銀城の目の前にいるのは、先程の反撃をした白雅ではなく、いつもの白雅。
しかし一気に力を使ったからか、あの時と一緒に息を荒くしていた。



「約束、か。聞いていたか?水上白雅。」

「あ…う…、何、を…?………っ。」
「まだもたねェか。そりゃそうか。」



ロクに何もきけないままそのままばったりと倒れる。
トラウマを抉るかのように、傷は負ってはいないのに見た目は重症だ。

イヤ、内側が。



「散々“内側”を痛めつけてるしな…。」



やたらに水上白雅という女は強さに拘っていた。
いや、最初はそう見せなかった。
だが、あの存在を知れば益々彼女は強くなるように必死だった。

身も心も強い人なのに、何処か脆くなっている。
まるで、何かを取り戻すかのように。

だから、追い込んだ。今まで以上に、身体よりも心を。
矢張り。何かに覆われていたモノが取れて、最初の時よりもすっかりよくなっていた。



「なぁ、白雅。お前はアイツにどんな約束をしたんだ?」
「約…束…。」



眠りそうになるほどの意識の中で、ゆっくり眼を閉じると。
真っ黒い中で、微かな光となってぼやけて見えるもの。

シルエットの状態だったけど、何かを言っているのか判る。



“君は俺だ。”

―――うん。わかってる。

“なら、生き抜けよ。俺はお前の中で生きている”

―――君が私の中で生きるのなら、私も生きなきゃならないんだよね。

“だったら、そっちはお前に任せたよ。だから俺を出すな”

―――判った。その代わり私のココロ、守ってね。私も君のこと守るから”



いつからだっただろうか。
守ってばっかりだったと、思いこんで。
守られている側だったことを、忘れてて。

ねぇ、だから覚醒してくれなかったの?
心を守る代わりに、封じていたの?

――――だったら、一緒に守ろうよ。私も、守るから。



「え…っ!?」



ぶわっと、大きく何かが動く。
どくん、どくん、どくん。

あの時と同じ、大きく鼓動が揺れ動く。
だけど、唯呆然と大きくなるだけじゃない。

あの時より、はっきり鼓動の音が解る。
そして、その鼓動の音とは別の音も判る。



「漸く、か。それが水上白雅。お前の“完現術”だ。」



自分がちゃんと確認をしないまま、ふっとあっさりと解かれてしまう。
ちゃんと自分の姿を見れるようにと、また心に誓おう。






思い出した約束
(多分…幼い頃に約束した事だったと思う。)
(なるほどな。だから、その姿か。)
(え?)