置き忘れ


世界はどこまでも続く。此処も同じ。ただ違うのは、この世界は地獄だってこと。
地獄に繋がるのは永遠の苦しみ。それ以外に安らぐ場所なんてどこにもない。

そして、人形だった彼女は少し世界が変わった。
それでもまだ劇的な変化は訪れはせず、緩やかに虚ろな瞳に色が戻る。

変化の理由は、あの男。
銀の髪、黒い覆面、すらりと高く、鮮やかな紫色の左目。



「……………。」
「まだこんな所に居たのか?」
「……………あ。」



目の前に両親のと思われてる(彼女はおそらくと思っている)頭蓋骨が砂漠に置かれている。
家族の中では最後に死んでは地獄に堕とされた彼女・##NAME1##。
白雅は未だに、初めて出会った場所で座っていたままだった。

そして白雅という名は自分で付けはしたものの認識してくれたのは…。
この長身の男、コクトーだった。


小さく座り込み、未だにその場所から動かない。
からからと唯見つめたり、灰色の空を眺めたりはしたものの、その場から動こうとはしなかった。

そして。彼女は彼と出会う。否会ったときからも、途切れ途切れの言葉で話した。
しかし、会話にはなる。ただ、途切れ途切れなだけで。



「お前ェは話すことが苦手なのか?」
「………?…ダメ、…でした、か?」

「いや、少し気になっただけだ。」
「……殺し屋は、必要最低限しか、話さない…。そう…言われた……。」



『だから、ただ、慣れていないだけ。』と間を開けながらも続けて話す。
そういえば、コクトーは納得したのか『そうか。』とだけ言った。

そういえば、初めて出会ったときに虚ろ気味だった瞳は今は鮮やかに戻りつつはあった。
流石殺し屋一家だったこともあって物騒さはある単語を並べるも、未だにあのあどけなさが残ったままなのは、恐らく素の状態なのだろう。

素の状態は何も知らないまるで無垢な子供。そうすら彼には思えたのだ。


彼女の名前は白雅。彼女が生前持つことなかった、名前のこと。
彼女はかつて実の両親にドールと呼ばれてはずっと仕事をこなしていたらしい。



「…なぁ。」
「…………?」


コクトーが白雅に声を掛けると、振り向きはしたものの首を傾げてはじっと見つめるだけだった。
しかしその瞳はまだ虚ろさがぼやけて映っているように見えたため、今度は少し声を張った。



「白雅。」
「……!…は、はい…?」
「ちょっとこっちに来い。」



やっと人間らしい反応を見せると、やっとか。と思いつつもコクトーは軽く手招きした。
しかし白雅は困惑しているのか、その場を動こうとはしなかった。

もしかしたら、単純に来れないだけなのかもしれない。
何せ出会ってからずっと同じ場所に座っていたのだからそうなら納得はいく。

そう思えば、コクトーは彼女の元に向かった。
相も変わらず、彼女は未だに頭にはてなを浮かべたままだった。



「………?」
「ほら。」



白雅が未だに理解出来ていなかったためかぽかんとしていたために、コクトーは自らの黒い手袋をした手を差し伸べた。
恐る恐る白雅も手を伸ばせばその腕に掴まれてそのまま引っ張られた。

ずっと座り込んでいたままの彼女は、初めて立ちあがった。
薄い布で華奢な身体を纏い、胸にはお約束の錆びた鎖が。起き上がる際に動いたか金属の音がちりちりと鳴る。


しかし長く座ったためか、足元が少しふら付いてる。
生きていれば血が不足したとか、通わなくなったとか言えたのだが、今は死後の世界だ。
何十時間、否もしかすればそれ以上。
だとしても、まるで急に立ったためにそのままふらりと倒れる。



「…っ…!」
「おっと。大丈夫か?」
「…………!!」



倒れそうになった時に、目の前に居た彼が支えてくれた。
そのお陰で砂漠に肌が触れることはなかったが、白雅にとっては非常に驚いたようで目を大きく開かせた。

反射的に離れはしたが、それに気づいたのと同時に何かを思い出したかのように顔を俯かせた。



「あ、…あ…、ご、ごめんな、さい…。」
「あぁ?何そんなに怯えてんだ?」

「……自分のことは、自分で…って、言われてたから……。」



怯えたような瞳。白雅には自我があるはずなのに、これほどまでに両親の教えに徹底的に縛られていた。
彼女に自由を感じ取られる所が殆どないといっても過言ではなかった。そう、彼は思った。

此処は地獄。自由なんて最初からないが、白雅は生前から平凡を過ごしてはいなかったようだ。
そんなことを思いながら、コクトーは綺麗な髪艶が浮かぶ白雅の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。
初めて頭を撫でられるからか白雅は困惑を浮かべつつも素直に受け入れていた。



「ンなの気にすんなよ。長い間座ってたなら尚更な。」
「……。うん。」



こくりと小さく頷けば納得したようで、頭から手を離した。
彼女は未だに、困惑したままだったので逆に面白さで小さく笑ってしまった。



「…?面白いこと、しました?」
「いや?何でもねぇよ。白雅。」



ポンポンと優しく叩くのと同時コクトーはにニィ、と笑みを浮かべた。
どこか優しい笑顔。それを見たら何かに動かされたのか、同じように笑ってみた。
しかし、笑い方がよくわからなくて口角を少しだけくっと上げてみた。






置き忘れ一輪花
(あ、…あの。これで、笑えて、ます…?)
(んー、まだ少し堅ェけどな。まぁ、いいんじゃねェか?)
((ちゃんと、笑えてたらいいな…。))