銀蘭に靡かせて

置いていかれた時間。置いていかれた思い出。
あの時に置いて行ったのは、心も然り。



私は今、幸いながら受験戦争を一足早く終えたいち学生だ。
貰えないと思っていた推薦も奇跡的に貰えたお陰で、とんとんとまではいかないが無事受験も終わった。
あとはこれから本格的に始まる冬から春に移り変わるのを、ゆっくりと待つだけだ。

卒業も近い。しかし大学は同じ町にあるからそんなに大した変りはない。
特にやりたいこともなかったが、取りあえず大学は。という親の方針を尊重するだけ。

そんな冬空を見つめていると、ふと。昔の記憶が過ぎ通った。
幼き、古い思い出。それを刺激するような白の髪の男。



くるりと振り向いて。声を掛けた。
これで人違いだったらどれだけ恥ずかしいことか。



「あ…!アンタ!も、もしかして…?」



それでも、核心はあった。
白の髪だけではなく、あの瞳の色も覚えている。

声を掛けられた男も気だるそうに振り向いた。
右目は眼帯で覆ってはいたが、晒された左目は紫の瞳。
そして肩まで伸びる白色の髪。そして何よりも。覚えのある表情。

男も彼女をうろ覚えではあったが、確かに覚えていたのかもしれない。
黒い艶やかな髪に陶器のように透き通った肌。

そして多少音が落ちたものの、聞き覚えのある透き通る声。
やっと思い出したのか、男が彼女の名前を呼ぶ。



「……白雅?」
「そ、そう!アンタ…、コクトーでしょ?!」



やっぱり幼馴染のコクトーだった。そうだと解り安心の笑みを浮かべた。
あーあ、危なかった。
同じ町に住んでいたのに、長年会っていなかったからこのまま過ぎ去ってしまいそうだった。

同じ町に住んでいても、私はうんと小さい頃に会ってから中々会っていなかった気がする。
小さい頃はほとんど毎日遊んでいたり、何処かで会っていたりしていたのに。
お互い年を重ね、お互いの時間を持つようになってから、ほとんどぱったりと会うこともなくなってしまったのだ。

結果としては、彼の方が年が上だってこともあるから、私が彼の後を追うように年を重ねたのだが。
しかし、今はこうしてすれ違いの中で久々の再開を果たしたのだ。



久々の再開だと嬉しさに笑みを浮かべていたが、スッと彼が白雅に近付く。
彼の身長の高さを、時間の差に差し替えつつ見つめていると、ポンと頭に男の手が置かれた。



「……背。」
「?」

「相変わらずちっこいな。」
「なっ……!」



久方の幼馴染に出会ったにも関わらず、まさかの一言に軽くショックを受けた。
確かに彼とは二つ三つ程違うけど、うんと小さかったころは此処まで身長の差はなかったのだもの。

だから、こんな少し屈まなければならなくなるまで身長の差がつくとは思わず、少し拗ねた。



「コクトーさんが高すぎるだけだよ。私平均的だもん。」
「お前ェの平均ってのがよくわかんねぇけどな。」



からかうような言い方とカラカラ笑う彼に、白雅は頬を膨らませた。
そんな白雅の頬を面白そうに指でつんつんと突き、笑い顔を見せる。

あの笑顔は昔のまま。でも、あの時とは何もかも変ってしまた。

癖のついた白髪は伸ばされ、眼帯を右目を覆い、黒いニット帽とのアクセントがよく似合う。
そして激しい身長差。男らしい体つき。声も変わって男らしくなっていた。

少しの年の差なのに、非常に昔の幼い記憶の面影は髪の色と瞳の色、そしてあの笑顔だけだった。
時間が経ってしまった、と感じると。少し切なく感じてしまった。



「……久々に会ったのに。こんなに変わっちゃったんだね。」



彼と、出会うのは久しぶり。
家が近かったにも関わらず、矢張り年の差もあって幼い記憶を最後に長らく会ってなかった気がする。

あの時は幼馴染の関係のままだったけど、今ではお互い年ごとの男女になったのだと改めて知った。



「あー…にしても、白雅。」
「?」



首をかしげると、そっと顎に指を滑らせて上を向かせた。
ズイっと近かったため、紫の瞳がとても近くに感じた。



「少し、綺麗になったな。」
「!」



『まさか、こんな言葉を聞くなんて。』
そう思わなかったから、非常に驚いた様子をそのまま表してしまった。


そして。幼き頃の記憶が今になり蘇り。
幼馴染のときにはなかった控えめな心が、ひょっこりを現れたのだ。

唐突に、心は揺らぐ。





銀蘭に靡かせて
(こ、こ、コクトー…さん?!)
(ククッ、言い辛そうだな。あん時みたいに言ってもいいんだぜ?)
(うぅ…。久しぶり、コクトー。)