裏表セレナーデ

かつて、彼女にも言った。
“手に入らないものは奪う”と。

故に、今夜。決行した。


誰も居ない、深夜の月だけが知る静寂の書店。
(彼女・ナマエは図書館とも言っていたが)

今の俺は客人のクロロではなく、幻影旅団団長のクロロとしてこの場に赴いた。
メンバーを集めるほどの大層な仕事ではないため、故に単独で向かったが予想通りだ。

鍵くらいで、防犯のセキュリティは甘い。
出来る事なら、彼女にこの姿を知られずにおきたい。
見つかってしまったら、殺さなくてはならない。

そう片隅で思いながらも鍵を呆気なく壊し、入り口に入って暫く進めると、声がした。



「なぁ、アンタ。誰の許可で此処に来てんの?」



少し中性的な声。そして声だけでも殺意が篭っているのがよく分かる。
だが、声からすれば幼い方だとも捉えられる。

見解だけで行くのもどうかと思っていたが、すぐに襲撃する。
このままでは、折角の貴重な本まで原型を留めなくなるだろう。

それは俺自身の目的のため許さない事だ、この場を離れて広いところに出る。
この位置ならば図書館は無事だろう。
彼も俺の思考を判っていたのか、この場でぴたりと止まる。



「こんな少年に、遅れを取るとはな。」
「アンタさ、甘く見すぎじゃないの。」



影で顔はよく見えないが、相手は小柄な少年だ。
だが、俺の考えている事も判っていたようだし侮れない部分もある。

色々思考を伸ばしていると、彼は口を開く。



「アンタの能力は、他人の能力を盗む力、だったな。
ざっと見たところ。それを発揮するには相当のリスクや条件があると見た。」



『そんな便利な力を条件もリスクも無しにホイホイ使われると怖いし』とさらりと結論付けた。
その解答は正解だ。それだけでも大分厄介なことだ。

何処でそんな情報を得たのか興味が沸いた。
いや、他人からの口頭での情報ではない。

言えば…そう、思考からだ。
記憶とかではなく、相手自身の持ち物とでも呼べる思考を選択して読み取るのだろうか。
しかし、こういう類は相手に触れるなどしなければ得られない情報。

不可解なところはまだ、ある。
情報が曖昧なのだ。

断定ではなく、少年からの口ではまるで予測の域だ。



「君の目の付け所は少し変わっているんだね。」
「まぁ、詳しい事は答えないけど。…だから、さ。」



彼が動いたが、矢張り影で顔は見えない。
というより、フードか何かを深く被って口元とギリギリ目の位置くらいしかわからない。

判ったのは、ニヤリと笑みを浮かべたことだけ。



「念だとか能力とか無しに、殴り合い。サシでやりません?」
「本当に…面白い少年だ。」



逃げはあっても、迎え撃つなんて早々ない。
強い奴と戦うときの昂揚感とか興奮とは、少し違くて近いものが俺を襲う。
面白い、彼の言う通りサシでやりたくなった。

そして、ほんの数分が経つ。
一進一退。いや、少し俺が押しているくらいだ。

だが、この必死さで目の前を失ってないところを見ていると、彼もそれを判っている。
トン、と接近すればすぐに離れた。彼は軽く顎に伝う汗を払う。



「ふぅ、一先ず私が押されてる、くらいか。」
「随分余裕だね。下手すれば君は殺されるっていうのに。」

「残念。そんな容易く私の首はやれないよ。」


彼はトントン、と不敵な笑みを浮かべて自分の首を叩く。
不敵な笑みと言うよりかは、どこか嬉しそうな笑み。

そして、急に殺意が冷めていくのを感じた。
死を覚悟したとかではない。
言ってしまえば、彼から敵意を感じない。



「危険度Aランクの犯罪者なのに、自他認める本好き。そのギャップに反しちゃうね。」
「?」



漸くフードを取り、夜空に溶ける瞳と、それに反する赤い髪。
その髪をくしゃくしゃと乱しつつも、軽く少年が咳き込むと、トーンが変わる。
いや、声そのものが変わって、聞き覚えのある声が聞こえた。



「アンタとはこんな物騒な殺し合いじゃなくて、昼下がりのコーヒーブレイクでも嗜みたいわ。」



ニコリと笑みを浮かべて、赤い髪を鷲掴み一気に払うと、現れたのは俺を同じ色の髪。

映えるような白い肌はまるで女性のそれで、透き通っていた。
黒の髪と瞳。そして聞き覚えの声。

そう、見間違うものがあるものか。そうだと判った時、驚きはしたが納得もした。



「君は…ナマエか。」
「正解。だけどコッチではスカーレッドとして通ってんの。
アンタがまさかあの恐ろしい旅団だとは思わなかったけど。」



クスクス笑いつつも、持っていたナイフをくるくると玩具のように遊ぶのは、
あの本好きでちょっかいを出すだけで赤面するナマエとは想像できない。



「何故…俺が旅団だと判った?」
「いやー…殆ど勘なんだけど、アナタの目に何処か違和感を感じて…。それだけ。」



勘、だとあっさり言ってやればきょとんとしてしまった。
いや、もっと核心的で論理的なことを言うと思っていたからだ。



「それだけ?」
「私一応資格は持ってるけど、あんまし物騒な事に関わりたくないワケでして。
唯こうして自分の図書館でのんびり過ごしたいのよ。
それこそ、珈琲でも紅茶でも味わいつつ、本を読んでのんびりして。」



道理で、名前も余り聞かないわけだ。
ナマエ。スカーレッド。その名はありながらも自ら表舞台に出る訳でもない。
いわば、影のような存在だという事。

そんな彼女が、ほんの数日間一緒に本を読んだり珈琲を嗜んでいたとは思いもせず。
自分が自分を笑ってしまう。



「だから、盗みじゃなくて堂々として来てくれない?
お客さん、としてなら大歓迎だから。」



ニコリ、と笑みを浮かべるナマエ。
あぁ、矢張り変わりもしない彼女だと、少し安堵した。





裏表セレナーデ
(何か…意外そうな顔してない?)
(いや、警戒心ゼロのハンターもいたとはね。)
(な…!あの時はクロロさんをお客さんで見てたからだよ)
(ここでさん付けか…くくっ、本当に変わった子だ。)