Last・kiss
攻防戦。というより、一方的による一方的な戦い。
それは、喰われるか喰われるのを避けるか。
「よっ、なまえ。」
「……。」
平然とした顔で、この男・安形は声を掛けてくる。
というか、私の教室まで来るなんて。
否。こいつが私が教室に残るように言いだしたのだ。
本来なら逃げても良いのだけど、逃げたら逃げたで色々厄介なことになることは明白。
だったら、さっさと用件を終わらせて逃げよう。
「なんだよ、冷てーじゃねぇか。なァ?」
「…で、何の用よ。用がないなら私帰るけど。」
ツン、とした表情でちらりと見てはすぐに目線を反らす。
未だにコイツが何を考えて、何のために私がこうなったのかも解っていない。
(そもそも、何でコイツに好かれるようになったか理由すら知らないし。)
「な、こっち向けって。」
「!」
くいっと頬に手が這い、視線がぶつかると、咄嗟のことで驚いた。
距離があったはずなのに、急に縮まったからだ。
あとは苦手意識もあるのだが、目線との二つの衝撃により彼女はまた目を反らした。
「さっきから目反らしてばっかだな。」
「…アンタの、」
「ん?」
「アンタの目。時々恐ろしく感じるから。」
やっとまともな事が答えられたのだと思う。
嫌いだとか苦手だとかの意識も、覗かれるような眼。
私の思考などすんなり読み取ってしまう、そんな眼。
彼の視線が、なまえにとっては変に恐怖の対象だった。
それなのに彼は自覚はあってかないのか曖昧な表情を浮かべて訊き返す。
「んー?そうなのか?」
「な…!」
「気にするなって。お前は既に俺のモンだろ?」
俺様発言をさらりと放ち、じりじりとデジャヴのような光景が今起きている。
更に距離を縮めようとした安形から離れるように、なまえもまた離れる。
しかしやがて追いつめられ、気付けば教室の壁。幸いか不幸か、人影すら見当たらない。
追いつめられた壁だって、廊下からだと気づかれにくい。謂わば死角だ。
この場所だったら、視覚による発見はないだろうと最初からこの男は解ってこの場に追いつめたのだ。
「チェックメイト、だな?」
「!」
勝負事だったらこの状況はまさに王手。
ソレを告げるかのように、顎をくいっと掴まれて持ち上げられる。また視線がぶつかって。
「ば…!馬鹿言って、」
「俺は本気だぜ?なまえの仕草ひとつひとつが俺を狂わせるからな。」
「そ、そんな…。んんっ!」
幾度かの安形のキスによる洗礼。
放課後を迎え、大分時間が経って人が少ない。
とはいえ教室でキスするなんて、イケないことしているような気がして恥ずかしくなる。
舌がぬるりと侵入させ、気がおかしくなりそうなほどに動転する。
認めたくない。認めたくないけど、安形のキスは巧くて気を張ってないと流されてしまう。
「んうっ…はぁ…。」
最初のような激しさが残るキス。
くちくちと舌同士が絡み、清純な高校生同士とは思えないほど官能な空気が漂う。
舌から、キスからゆっくりと解放されると、とろんとなまえの意識が少し朦朧してきた。
それを満足げな笑みを浮かべる彼。
このまま持っていかれるならば、となまえは咄嗟に覚悟し、朦朧としたままで反撃の一言。
「アンタのこと、好きになんて…ならないからね。」
宣誓布告を云い放つ。やっと反撃に出れたのかもしれない。
(今まで流されに流されっぱなしだったからね!せめての一矢の報いだ!)
最初は予想もしなかった反撃にポカンとした彼。
だったが、笑みを浮かべてニタリと何かが思い浮かんだような表情をした。
「かっかっか。それはどうかな?」
「…何でそんなに自信あり気かな。」
「俺には解んだよ。」
『何が…?』と思わず質問をしようとすると、彼は彼女の口元に手を抑えて笑みを浮かべる。
まるで私が訊こうとしてることが解っているような素振りで。
「お前が俺のこと好きかもな、ってこと。」
きょとんとするような答え。此処まで来ると正真正銘の馬鹿だ。
自惚れだとか思いたいけど、何処か核心を抱いたような眼が非常に引っ掛かる。
「だったら、ひとつ賭けをしないか?なまえ。」
「…何、を?」
離れようとしない距離。
そして、相変わらず頭の中に手を突っ込まれたような眼で見てくる。
何もかも掻き回してヘラヘラ笑っておきながら、何で酷い人だ。
「俺に惚れたらお前を貰うってことだよ。」
そう言って、宣誓布告の口付けをまた交わしたのだった。
(いや、相変わらず一方的だけど)
Last・kiss
(馬鹿言わないで!色々奪われたままで終われるか!)
(安心しろよ。そのうちこっちも奪ってやるからよ。)
(…アナタの事なんて好きになる筈、)
(言っておくが俺は性格が悪いからな。覚悟しておけよ?)