声と瞳
珍しく午後の授業も出た。
取り敢えず出た授業は垂れ流し状態にしながら、友人からノートを借り、今までのを必死になって書きこんだ。
それでチャイムがなったのと同時に終われば、疲れがどっと出てはぐったりする。
幾ら成績は優秀な方とは言え、ノートも書かないまま臨むことは赤点行きになりかねない。
最初からちゃんと出ればいいけど、授業は退屈だから出ないというツケは、このように返ってくる。
ノートをひたすら移す作業はまるで地獄みたいだと思った。
HRを聞く気にもなれず、思わす携帯を取り出すとランプが点滅していた。
「…あれ?」
ランプの色からすればメールだと思い、パカっと携帯を開けた。
一通のメール。だが、メールではあるものの、記憶にない宛先がデータとして入っていた。
その宛先は『安形惣司郎』と記入されていた。
「入れた覚えないのにな…何で知っているんだ?」
生徒会の力を使って調べ上げられたから?
しかしこちらの携帯に名前まで入っているのも気になる。
知らないアドレスならば、宛先に名前はない筈なのに。
兎に角入れた覚えのないアドレスが何故登録されているのか解らなかったが、取り敢えずメールを開いてみる。
To :安形惣司郎
Sub :(non title)
mein:今日の放課後、生徒会室に来いよ
「……。」
もう、どこから突っ込めばいいか解らない。
こんな簡潔なメールで呼び出しなんて、『私とアンタはカレカノか!』と思わず突っ込みたい。
しかし、メールを無視したら無視したで怖いので、HRが終われば仕方なく生徒会執行部室に向かう。
(正直苦手なんだよね…あの部屋。もし副会長とかいたらいたらどうしよ…。)
いないことを望んで扉を開けると、矢張り居た。
「…何でいるかな。」
「俺がお前を呼んだからな。」
ため息交じりで返せば、そんな風に言いだす。
呼んだ当の本人は生徒会長の椅子に座っては肘をついて欠伸をかいている。
「今日の生徒会は?」
「今日は休みだ。」
「そう、じゃ。サヨナラまたいつか、」
くるりと振り返りさっさと帰ろうとしたが、足が止まる。
それもそうだ。何故ならば安形に手を掴まれているから。
男と女の力の差もあって動けない。
「…手、離して貰えません?」
「ちゃんと来たんだな。」
「人の話聞いてます?…まぁ、来なかったら色々怖いですし。」
「かっかっか。そうかそうか。」
嫌味も含んだはずな返答を、愉快に笑うその顔に一発殴ってやろうかと考えた。
なんやかんやでコイツの言うことをきかなくちゃならない気がして無性に腹立たしいからだ。
「で…。何で私の携帯にアナタのアドレス入っているんですか。」
「そりゃ俺がこの前入れたからな。」
「削除していいですか?」
「残念ながら、俺の方には登録済みだからな。消してもすぐに送りつけてやるぜ?」
何て性悪。アドレスをいつ登録したのだとか色々推測しようとしたがそれも止めた。
恐らく隙を狙っていつの間にか送っていたに違いない。
きっと消したとしても、送りつけるというのは本当にやりかねない。
(…いっそ、着信拒否でもしてやろうか。)
「言っておくが着信拒否しても意味はないからな?」
「!‥また心読んだの?」
「かっか。まぁ、そうだな。なまえはそうでなくても読みやすいからな?」
『然り気無く失礼なこと言わなかったか?』なんて片隅に思い、腕を払おうと顔を反らしては思いっきり払う。
しかし離してくれる様子もないため、反らしたまま反抗を続けた。
「なぁ‥。」
「な、なに?‥きゃあ!」
言葉に思わず振り向いたら、腕を掴まれて引っ張られた。
気付けばソファを背に、目の前は天井をバックにした安形の姿。
「ちょっ、ちょっと!」
「かっかっか。誰もいねぇからこのままいようぜ?」
悪戯っぽく笑う彼。しかしこれが本当の悪戯なら洒落にはならない。
今の光景を第三者が見たなら、これはどう見ても押し倒されているとしか捉えられないからだ。
「どいてよ。私帰りたいか、」
「俺がそう簡単に帰すと思ったか?」
一瞬声色が変わって、反射的に硬直した。
そして、言葉の意味を頭の中で確認し…、…何ですと?
「な、んで‥?」
「それを今更聞くのか?」
「‥まさか、これが目的‥?」
「まぁそうだな。」
ひとつひとつ整理してみる。
今の状態は安形によって押し倒されている。
更に二人っきりで鍵もかかっており、生徒会のメンバーはお休みのために来ていない。
結果。色々な危機の寸前。
「あ、あの…。洒落になってないので離れてくれません?」
「かっかっか。断る。」
ニタリ、と何処か嬉しそうな笑みを浮かべてはそっと頬に手が這う。
ぞわりとした事にどうしたらいいかわからずパニック寸前。
なんでこんな腹黒会長に惚れられたのかが解らない。
(そもそも、本当に好きなのかホの字なのかも怪しいし)
「最近態度がなってねぇからな。生徒会長が直々矯正かけてやるよ。」
要らないよ!そんな親切心!!
しかし身を捩るにしろ解放してもらうにしろ、この状態では動けない。
唯でさえ吐息がぶつかるほどの距離で、洗脳するような低い声で伝えられれば何も考えられない。
真剣そのものの瞳でそんな言葉を言われては逆らうに逆らえない。
その時にふと思った。
『あぁ、きっと逆らえないんだろうな』って。
声と瞳
(アンタって、時々腹黒いよね。)
(かっかっか。そりゃ俺は性格悪いからな)
(そのカミング・アウトもどうよ。)