今日も浅草は快適で、今日も我が身は軽快で。
いつものごとく日課をこなす。
鼻歌を歌いながら、カランコロンと下駄を鳴らす。
いつもの日常で、活気づいた私の好きな町。
手には店の文様が入った風呂敷。中身はお店自慢の四季折々の菓子。
目的の詰所につけば暖簾をくぐりつつ声をかける。
「御免ください。」
「お、いらっしゃい。嬢ちゃん。」
「…ッ、相模屋のダンナ。もう嬢ちゃんって年でもないですよ?」
クスリと笑いかけて挨拶を交わす。
嬢ちゃんと呼んだ紺色の着流しを来た男は私に微笑む。
名前で呼ばないのは特に理由はないのだが、こうしたやり取りはすっかり馴染んでしまっている。
今更ながら直せるわけでもないのでこのままである。
嬢ちゃんと呼ぶ彼からすればまぁ、私は子供っぽいだろうけど齢としてはいわゆる年ごろでもあるわけで。
(…少しくらいは、気にかけてほしいなんて思ってもいた。)
「今日は何の用で?草薙の姉ちゃん?」
「ッ…!今日はご注文の甘味をお届けに。皆さんでどうぞ。」
甘めのお菓子から甘さ控えめ、お茶に合うものからお酒に合うものまで。
見るだけでも楽しめる選り取り見取り。
声に反応したのかぴょこっと双子ちゃんが顔を覗かせると笑いかけては、早速風呂敷を持って行った。
こうした喜ぶ顔を見るのは私は好きだ。この喜ぶかおがあると、私はいつでも頑張れた。
「いつもすまねぇな。」
「いえいえ、いつも御贔屓にしていただいておりますから。」
紺炉はそういうも、こちらとしては御贔屓いただいているので、笑みが零れる。
私は甘味屋の人間ではあるが、今はまだ自身の作品は出せてはいない。
まだ半人前なので、人様に出せるものではないとわかってはいる。
(味わね、保証はするけどね。)
でもあの笑顔を私が作ったもので見せられたら、もっと感動するだろうと勘が囁く。
だから修行も欠かさない。お届けを買って出るのは、所謂『もちべーしょん』を焚きつけるためである。
「折角だ。あがったらどうだ。」
「えーっと…まだ仕事中なんですが……いいんですか?」
「気にすんなよ。いつものことだろ?」
「まぁ…そう言われたら…そうですねー。」
また戻る時間が遅いって言われそうだけど、そう思った時にはすでに上がっていた。
先ほどのお茶に合う菓子を添えて。
(なんで紺炉さんの入れるお茶は美味しいのだろう…。)
ずず、と緑茶を飲む。うん、しつこくない甘さがちゃんと合ってる。
むぐむぐと食べながら味の特徴とか、風味とか、思考がまとまっていく。
あぁ…本当にすごいよな、と我ながら修行先の主を考える。
どれが合うかというのがばっちり合うし、それをわかっているから客も来る。
あの笑顔を自分のお菓子でも引き出せたら、って思うと笑みがこぼれる。
(出来れば……相模屋のダンナに食べてほしいな、なんて思うのは烏滸がましいかな。)
「なぁ、陽。」
「!?え、っと………ナンデショウカ。」
「なんで片言なんだ。」
いや、私が知りたいです。咄嗟の反応だったものでしたし。
……はて、何でこんな反応だしたんだろうか。
首を軽く首を傾げていたものの、目を丸くする私を他所に、くすっと笑いかける。
まぁいいといって私を呼んだ要件を口にした。
「今度、お前さんの菓子を振るまっちゃくれねェか?」
「………え?」
一時停止。
毎日作っては消化される、私の胃袋に。
それは幸せを噛みしめるためではなく、人様に出せるものではないものを出さないため。
作った人間が、責任をもって食す。これは半人前の責務でもあるわけで。
そんな半人前なんですけど、試練が来てしまったようです。
半人前職人の試練
(い、いえいえっ、私の作るものはまだ人様に出せるようなものでは…。)
(若もお前さんの菓子が食べたいっていってましたぜ?)
(えー……さいですか……。)