向けられた感情の解答はあなたの心に

ぐるぐるぐると掻き回される感情。
この感情の行き先はどこになりますか。


自室兼練習場。
あくまで弟子の私ではありますが、お客様の注文には答えなければいけない。

いや、注文というよりは半ばご指名に近いおーだーで、結局根負けしては諦めで菓子をせっせと作る。
だが、納得がいかないのだ。

見た目はまだ未完成だから仕方ないにしても、だ。
(いや、それはそれで駄目なのだが)
どうしても、味が納得できない。

味の調整を幾度としても、首を縦に振れるようなものが作れなかった。
一度手を止めて、なんでかな、って思ったけど答えはすぐにわかった。


いや、腕前の問題とか技師としての問題もあるがそれ以前のことだ。

相模屋のダンナのことだ。
花火の夜に、本人がいないところで告白したらそれを聞かれてて。
(あのときは、あ、死んだって思った。)

玉砕かと思ったらあっさりと受け入れてくれた。
真っ直ぐな目でこちらをみて返事をくれたことが私はとても嬉しい。
………にしても、なんであんなこといったんだろうか。
どうせ、失恋だろうなっておもったのに。

向けられた感情の答え方を、少しは戸惑っている。
私は、紺炉さんへの『好き』に応えられるのだろうか。

ぐるぐると思考がまとまらず、味も納得はどれもできなかった。
見た目より味には保証できる私が、味すらも保証できないことは重症だった。
それは、私としても致命傷だってことはよくわかった。



   *


「で、今日はお前さんのじゃないんだな?」
「え、っと……すみません。少し、すらんぷ、ってやつで……。」



何を作っても、何度作り直しても、私のなかでこれって味にならなくて。
そんなものはとてもじゃないが出せるわけがなく、結局はいつものお店の味。

振る舞う、といった約束は勿論果たすけど今はそれどころじゃない。
安定しないどころか、ひどく歪んでいたから。
自身のオトシドコロがわからないままでは、きっと進めない。そう思ってしまったら、手が止まる。

私は、失格者かな。



「……陽、なにか考え事かい?」
「!え、っと………まぁ、そうですね………。」



唐突な言葉にどきっと意識が向く。
咄嗟に返事を返したが、流石だなって思う。
そりゃそうだ。つい数日前に私は彼に告白をした事実がある。

腕前以外の理由があるなら、心当たりがあっただろうから。
………結局はこの先の結果がどうなろうとしても、答えを出してしまった方が早かった。



「…………あの、1つ。いいですか?」



おずおずと問いかければあなたはお茶をずいっと飲み、あぁと返事を返す。



「どうして、相模屋のダンナは、私の告白を受けてくれたのですか?」



意を決した質問だったためか、彼は少し考えた。
あぁ、もう返答に困る質問を。我ながらそう思う。

真意を聞くなんて禁句で、いっそのこと面倒な女として切り捨ててほしかった気持ちもある。
少し息が止まったかと思いきや、彼はこちらに視線を向けた。

少しだけ、困ったような顔で。



「その答えは、前に言ったはずだが?」
「……?」



彼は何て言ってたっけ?と思い出そうとすると、顔を近づけた。
不意だったから咄嗟に離れることはできず、両頬を抑えれた。
(あぁあああああ!!だから近いですって!!!)

そんな彼は私を差し置いて、ひどく真面目な顔つきでこちらを見ては告げる。



「俺は好いた女からの告白を受け止めただけだ。ってのは、理由にならないか?」



彼の返答に全身の血液が熱くなるのを感じた。
好きといわれた人からの告白を受け止めただけ?

その返答は私のイタズラのような質問とは斜め上にずるく暴力的だ。
模範解答といってもいいのかもしれない。

だが、その模範解答過ぎる解答は時にぐだぐだ考えていた私の思考すら吹き飛ばす。
私の問いかけが暴力であるのなら、彼はそれをも吹き飛ばす暴風だった。



「そ、その返事は、ずるいですっ!」
「そりゃ、好いた女の前で格好悪いところを見せられねぇ、ってことだ。」



ニヤリ、と笑うあなたに何も言い返せなかった。
答えを出した理由もシンプルで強烈な一撃だった。

好きな人の告白に応えただけ、ってずるいなって改めて噛み締めてしまう。
私も、そこまで彼に恋い焦がれてしまっていたのか。

ぐるぐるした感情は半ば諦めで、行き先が確定した。
あなたの心に添い遂げると。





向けられた感情の解答はあなたの心に
(ん、相模屋のダンナのお茶に合うお菓子……作ってみようかな。)
(ほう、そりゃ楽しみだな?………で。)
(ハイ?)
(いつになったら名前で呼んでくれるんだ?陽。)