静寂の雨より開戦を告げよ

雨の音はすべてを静寂に包む。
こんな雨の下で物騒な出来事なんて、無粋にもほどがあるだろう。


急な大雨が空を覆い。分厚い灰色の雲の下で、大粒の雨に打たれていた。
最初こそ抗ったものの、もう回避不可の雨だったから仕方なくなすがままに打たれた。

雨の空間になると、急に音は雨音に支配される。
すべての体温も音も、匂いすらも。五感のほとんどを残酷な雨は連れ去ってしまう。


この雨の音に融けてしまうのだろうか。
生きている、といった感触すらも奪われて――――。



「おい、リン。」
「!あ…。ジョーカー。」



一瞬考え事をしていたが聞きなれた声によって呼び戻される。
くるりと振り向けば、黒衣の男が立っていた。
自身をジョーカーと名乗る男にボクはついていくことを決め、行動もともにしてはいるのだが。

私自身は世間では死んでいる人間扱いである。そもそも地上の人間でないので。
地上の人間ではないが、呪縛から自ら外れて外の世界を知ったときは、知らない世界に投げ出された感覚に陥る。
特に、雨に打たれているときは。



「ンなとこで打たれてると風邪ひくぜ?」
「ふふ、気にかけてくれるんだ。」



ゆっくりとした足取りで近づき、ぐしゃっと頭を撫でられれば小さく笑う。
流石にずっと雨に打たれて体調を崩してちゃ本末転倒なのはわかるので、切り上げようかと地下に降りる。

秘密の場所まで進めれば、扉を開けて中に進める。
すっかりずぶ濡れになってしまったなんて思ってはぎゅっと水気を絞る。


さっさと、シャワーでも浴びで着替えよう。
そう思っていると、ジョーカーは視線を落としてこちらに向ける。

すっと近寄ってきたかと、思いきや。



「?…どうかしたの、ジョーカー、ひゃっ!?」



咄嗟に言葉を途切れるように変な声を上げてしまった。
いや、理由ははっきりわかるんですけどね。

唐突に、ジョーカーによって尻を鷲掴みされたからである。



「んー…。あの時気づいてなかったが、いいケツしてんだな。」
「はあ!?」



言われてみれば。
女子供とみられるのが気に入らない理由で、だぼっとした服で体系を隠してはいる。
聖陽の影にいた頃は、シルエットを誤魔化すのにあの衣装は都合がよかった。

だが、身に纏っていた衣服は今はずぶ濡れになっており、服では水分を吸っては体に張り付く。
その為に女性らしいシルエットがぴったりと主張する。

…すごく、嫌な予感がする。



「俺は好みだぜ?」

「いやー…アンタにそこ褒められてもうれしくないんだけど…。」
「ツレねェな?」

「いやいやいや、ここでハイソウデスカで揉まれるのを許容したくないんですわ。」



揉むな!触るな!で手を払っても懲りないから困ってしまった。
完全に予想外であった。本当かウソかは知らないが、こうなるなんて予想もしてなくて。

幾らかつての古巣の同郷のよしみとはいえど、限度はある。
案の定ではあるが、この後セクハラじみた行為にブチ切れて戦闘寸前になるのは言うまでもない。

流石に大暴れしたくないんだけど、貞操の危機を感じ取ってしまったのだから。
防衛線をせざるを得ないわけだ。




静寂の雨より開戦を告げよ
(んー…触り心地悪いな…、ズボンを脱げ。じっくり精査してやる。)
(離れろって、はあ!?いい加減にしないとぶっ飛ばすよ!!)
(俺に勝てると思ってんのか?)
(ボクだって一応、元・聖陽の影なんですけど!!)