年の差があるから、不安がない訳じゃない。
それでも、愛しい人だってことは事実である。
「……なんで、紺炉さんは、そんなにせくしぃなんですか。」
「どうしたんだ、急に。」
せくしぃ、つまりは妖艶のことです。
といえば、それぐらいは分かるとあなたは言う。
でもそもそもわからないだろう。
……今の彼女が正常でないことを。
「って、陽!飲みすぎじゃねェか?」
「そんなことっ、ありましぇん…。」
紺炉が絶句するのは云うまでもない。
彼女は端から見ても悪酔いしていた。
すっかり顔は火照ったように赤く、更には呂律も回ってない。
その状態で詰所に来たかと思いきや、紺炉に唐突に言い出して今に至っている。
この状態ではまともな会話になるとはとても思えない。
かといって、送り届けるにしてと今の状態では懸命ではないだろう。
こうなれば酔いがさめたら、彼女を送ることにしよう。
紺炉はため息をついては彼女を抱えて部屋に入った。
さすがにこんな姿を若い衆には見せられない。
……勿論、教育によくないから尚更である。
「ほら、陽。」
「ん、ぅ…………。」
教育によくないとわかっているとはわかってながらも、酔った彼女はとても珍しい。
酒に酔ってなければ、ここまで積極的になることはないし、名前もこんなに呼ばない。
そんなのこともあって、無防備な彼女を紺炉は愛しく思えたのも事実だった。
しかし陽がじたばたと暴れだし、バランスを崩してそのまま一枚の布団に飛び込む。
「……陽。」
足が縺れてバランスを崩すと、陽は布団に直撃かと思いきや、そのまま紺炉の胸板にダイブする。
紺炉の鍛え上げられた筋肉が、包帯越しに触れられると否応にも意識したのかさらに顔を赤くする。
「ん、こんろ、さん………。」
「ったく、怪我はしてねェか?」
そう問いかければ、コクりと頷いた。
将来を約束した伴侶とはいえ、流石に嫁入り前の娘を前に送り狼になるのは不味い。
そう紺炉自身に言い聞かせて、彼女を横にさせる。
少し眠れば、酒も抜けるだろうと優しく頭を撫でた。
お酒が入っているときは素直に名前を呼ぶのがとても愛しい。
……と、微笑ましく見えていただろう。
この直後、まさかの陽が何を思ったか、袖をくいっと引っ張り自ら紺炉に口づけた。
「………!!」
いつもは身長差があるゆえに、陽からの口づけはまずない。さらに言えば、素の彼女はかなりの恥ずかしがり屋。
まともに視線を合わせられない彼女がら押したのだ。
懸命に口付ければ、ゆっくり離しては上気しきった顔で見上げた。
切なげな顔をして、袖を掴んで見上げる姿に艶やかさを感じた。
「私………子供、ですか…?紺炉さんの……ような、大人のかたに……つり合いませんか?
私、だって……好きなんです……っ。」
ここぞとばかり、か細く。あどけない顔で見上げる。
艶やかな表情で告げるその姿はまさしく夜を誘っている、と捉えても異論はなかった。
盛大にため息を紺炉はつき、バランスを少し崩した体勢から距離がグッと縮まった。
「コレがどう言うことか、わかってンだろうな?」
「…………?」
陽の返事を聞く前に押し倒しては優しく触れた。
髪止めもはずされているため、はらりと重心で落ちる黒い髪。
酒によって既に上気しきった頬。
そして、酒のためか発汗して白い肌がしっとりする。
年頃の女性が言い寄れば邪な考えもよぎるだろう。
「お前さんは、無防備で男に言い寄ったらどうなるか、教えておく必要があるなァ?」
低い声にぞわ、っとした感覚に陽は震えた。
その後に啄むように何度も口付けが落とされる。
いつもの触れるだけの優しいものではなく、食べるような口付け。
意識を段々遠退きそうになるが、寸でのところで解放される。
だが既に息絶え絶えであるが、彼は止まらない。
ぞわぞわする感覚に震えているのを他所に、今度は首筋に息が当たる。顔を埋められているとわかっているが、紺炉の吐息すらも感じて、震える感覚が止まらない。
逞しい腕に押さえられ、まるで食べられる感覚と似たものを感じた。
何が起こるかわからない恐怖をほんの少し抱えてきゅっと目をつぶると、視界を自ら閉じたことにより、触れられる感覚や音がよりハッキリとする。
「っ、ん……!」
ちくり、とした感触が首筋の付け根にびりりと感じる。
例えるならその感覚はしびれるような、その感覚。
ほんの少しの痛みを感じながらも、うっすらと目を開く。
痛みが引くと、また愛しい人の声がする。
「陽。」
ぼやける視界のなかで真剣そのものの、彼が目の前にいる。
少し切羽詰まったような、ほんの少し余裕のない表情。
それだけでも、十分すぎるほどに惚れてしまいそう。
なんで、こんなに紺炉さんは艶やかなのだろうかと。
ほろりと涙を一度だけ溢しては、思考がぼやけるなかで再度名前を呼んだ。
「こん、ろ………さん。」
敷き布団に、きゅっと握ると重なって手が握られる。
愛しい人が、目の前にいることに、幸せを感じる。
とても幸せだ。とても、しあわせ、だっ……………
「…………陽?」
「……………………すぅ……。」
「な…っ?!……嘘だろ……………。」
しかし本人は彼の腕の中でなく、夢心地にいってしまった。
しかも酒が入っているためか、いつもより寝付きがいい。
幸せそうに笑って手を握る姿にすっかり気を削がれ、諦めてはあなたを抱き締めてそのまま目蓋を閉じる。
勿論翌朝に記憶がない彼女が、大変なことになったのはいうまでもない。
酒は飲んでも呑まれるなと賢者は謂う
(わ、わた、私………っ!?相模屋さん、と、ど、ど、同衾………っ!!嫁入り前なのに……。)
(それはそうと……お前さんは酒が入ると随分積極的になるんだな?)
(!!?)