訳あり同居生活、始めました。

喧騒が響き、今日も浅草はとても平和である。
今は仕事中のため、配達に励む。

終わったら、詰所によって労りのお菓子を用意してこよう。


「わー、賑やかですね。」



焔ビトが現れれば、この町の頭が手向けという名の祭りのどんちゃん騒ぎが始まる。
今では日常となってしまってはいるが、民家が次々に吹き飛ぶ様は少し心地よかったりする。

だが、あまり他人事でもないときも勿論あって。
それがまさに今。しかし、少し気になることがある。



「‥‥‥?‥‥あの方角は‥‥私の部屋があっ、‥‥‥‥‥。」



よくよく見れば、喧騒真っ只中の方角は私の部屋があるところだ。
‥‥‥すごく、熱烈に嫌な予感がする。

激しい破壊音と荒れ狂う砂埃で様子がわからない。
もしあの中に私の部屋が飲み込まれていたら、間違いなく助かってはいないだろう。


不安を感じてしまったら状況だけみたくて、仕事を少し中抜けする。
部屋に向かうと、舞い上がっていた砂ぼこりが大人しくなり、何度か見渡したが既に部屋の原型はなくなってた。
(あー‥‥‥‥察しました。)



「あー‥‥‥見事に射程圏内だった‥‥‥‥。」
「陽か?」



私の姿を見かけたのか、声をかけてくれたのは紺炉さんだった。
(あ、そっか。家知ってたんだもんね‥‥でもこればかりは仕方ない。)

破壊して弔いをするのが、ここの手向けなので。
それに、家の原型がなくなっても失いたくないものは手元にあるものだ。



「そういや、この辺お前さんの家だったな‥‥?」
「まぁ、部屋に私物ほとんどないので、いいんですけど……。」



こちらは無事ですので平気です、と柔らかく微笑む。
懐から取り出したものは赤い簪。



「簪?」
「‥‥はい、相模屋のダンナからいただいたものです。」



肌身離さず身に付けていたことに、心底安堵した。
自室には寝るためにしか戻らないことも多くあり、家財は最低限のものだけに留めている。
よく、手向けで吹っ飛ぶのを知っているから。

この簪は替えがたい程に、とても大切なものである。
着飾ったときにしか付けてはいないが、これは特別の証だから。
その反応に笑っては、ぐしゃぐしゃ、っと撫でられた。


紺炉さんが誰かに気付き、若、と告げる言葉に視線を向ける。
勿論、ここの頭の姿である。



「陽か。」
「お疲れ様です。紅のダンナ。」



一息をつく紅丸に一言挨拶を交わす。

丁度終わったようなため、後で労りのお菓子をもって詰所を訪ねよう。
勿論、紅丸には甘さ控えめのお菓子をお持ちして。
今の時期だとお茶に合うお菓子がいいかもしれない。

だが今は仕事の中抜けしているため、あとで店によらなくては、何て考える。



「陽。お前のも巻き込んじまったな。詰所に泊まってけよ。」
「あ、いえ。お気になさらずに。お言葉には甘えますけど。」



紅丸が家のことに気に掛けてくれ、私は安堵したように笑い掛けた。

民家が吹っ飛ぶのは最早日常のひとつであるから今に始まったことではない。
何度か吹っ飛ばされては、詰所に泊まって修理が済めば元の部屋に戻るだけ。
今回も、そうなる。‥‥そうではあるが、

だが、詰所でのお泊まりはちょっとした特別感を感じので個人的には好きだ。
ましてや、今回は想い人の相手もいる。
こんな嬉しいことはないだろう。勿論、この時間は修理が終わるまでの時間だけ。

その時間だけでも、一緒にいられるのは限りなく幸せを感じていた。



「………おい、陽。」
「はい?」


一時だけの幸せを噛み締めていたところに、紅丸の声がした。
そちらに振り向いて返事を返す。

お菓子の注文かな、と思って振り返ったが予想外のことが耳に飛び込む。


「お前、紺炉と一緒に暮らしてねェのか?これを機に住んだらどうだ?」

「なっ!!!?」
「若っ!」



一瞬にして期間限定の思考が吹っ飛んだ。
ほんのひとときの幸せが、すぐ間近になろうとは思いもしなかった。
(いや、ほぼ公認状態だったけど、順序飛んでませんか‥‥‥!?)





訳あり同居生活、始めました。
(で、でも‥‥詰所は皆さんがいらっしゃいますし‥。流石にご迷惑では‥‥‥‥)
(だからお前は紺炉の部屋で寝泊まりな。)
(なななっ!??)