恋慕の結末は月のみぞ知る

家が吹っ飛ばされ、詰所泊まりが確定したときに。
更に告げられる結論に思考が止まる。



「‥え?相模屋さん‥‥‥今、なんていいました?」
「お前さんには悪いが‥。」



彼の言葉に二度も確認をした。
それでも、答えは変わらず。

返答の困惑っぷりに戸惑っては、つい。



「‥‥まじです、か‥‥‥‥。」



仕事も終わって、銭湯からあがって浴衣に着替える。
着替えたら帰路つく先は自室ではなく詰め所である。

いや、確かに紺炉さんとお付き合いしていますよ?
なんなら、婚約を約束までしましたよ?
それでも、この展開は誰が想像できましたか?


手向けで私の家は跡形もなく吹っ飛ばされ、
修理が終わるまで仮住まいで詰所に泊まる予定だったのが、このまま同居生活となるなんて。

そこも驚きではあるのだが、一番驚いたのが。

紺炉さんの部屋で寝ること。
さらに言えば一式の布団で。


‥‥‥‥ちょっと待って!!!
幾らなんでも早すぎます。まだ祝言もあげていないのに!


しかし、空き部屋がなく将来を約束したのなら同じ部屋で寝るように言われてしまえば従うしかなかった。
(いや、いずれって思ってましたよ?でも、今ですか……。)


そうした悶々から銭湯から戻り、浴衣姿で部屋を訪ねると着物姿の彼がいた。
(うぅう…本当に何度見ても、ときめいて仕方がない。)



「‥‥‥お、お邪魔‥‥します‥‥‥‥。」
「戻ったか。陽。」



変に意識してしまうではないか!私のバカ!!と、内心唱えながら赤い顔を隠す。
これ以上、私を刺激しないでほしい。

既に今日という一日で色々と日常とは異なる展開を続けている。
流石にこれ以上非日常的な展開が起これば許容範囲を超えてしまう。

すごく、沈黙が痛い。
正直廊下の床で寝てしまいたい。



「あの‥‥私、やはり廊下で、」
「それは駄目だと言ったはずだが?」



案の定却下された。いや、そうだろう。
でも、私自身にとっては天秤にかけていいほどである。

真っ赤になる私を余所に、ふっと優しく笑う紺炉さんは手招きする。
赤くなりながらも近寄ると、紺炉さんは腕を引き寄せてはそのままぎゅっと背中から抱き締められる。



「ひゃっ?!さ、相模屋さん‥‥っ!」
「この姿も悪くねェな?」



部屋の中で二人きりだからなのか、こんなに迫られたことはない。
背中にあなたの体温を感じていたのに、くるりと反転させられて正面に向けられては口づけを落とされる。
少し唐突な口付けに震えていると、するりと首筋に掌の、指先が当たる。

丁度湯上がりのためにうなじは露出されており、じっくりと触れる感覚に顔にじわじわと熱が重なる。
ぎゅっと袖をつかむと、更に口付けは深く密着する。

一線を超えてしまうのかもしれない、という意識は段々薄れていく。



「ふ‥‥、ぅ‥、ん‥‥。」



段々と啄むように口付けられれば、背筋がゾクゾクする感覚に陥る。
求められていると嬉しくなり、無意識に唇が開けばぬるりとした感覚に少し驚く。
それが舌だとわかる頃にはすっかり蕩けさせられた後で息が持たない。

まともな呼吸もできずに窒息しそうになれば、ゆっくりと唇が離れて銀の糸がつぅ、っと繋がった。
その時の彼はとてつもなく色気が孕んでて、息が止まるようだった。

口付けと合間って、本当に愛されてる感覚に目の前がくらくらしてしまう。
まともに息ができなくてぐったりとして紺炉さんの着物をつかめば、あなたは優しく笑って布団に横にさせてくれてた。



「今日は疲れただろ?」
「で、では‥お先に‥!おやすみなさい。」



布団の主より先に眠るなんて、とは思った。だが許して欲しい。
これが夢であるようにと、今日という一日を早く眠りで過ぎるようにと願った。

一緒にいられることは嬉しい。
そうなれば、寝る時間すら惜しいとは思うだろう。

だが、それにしてもいろいろと心の準備をしてからでないと迎えられない事実もあって。

先ほどの口付けといい、鼓動も心も落ち着かない。
焚き付けられた感情の向けどころを、どう応えればいいのかわからない。
ならば静かにさせるしかない。
何事もなく、無事に朝を迎えられるように願った。



「陽。」
「‥‥ハイ?」

「さっきは悪かったな。ゆっくり休めよ。」



そういって、頭を軽く撫でられて同じ布団に入る。
視線を向けると彼は背を向けていた。

優しく撫でられる感覚に、思わず涙が出そうになった。
彼なりの優しさなのかもしれない、とその時思った。
不可抗力とはいえど、こうなってしまったら一番戸惑うのは私だと、気を遣ってくれていたのかもしれない。


やはり、紺炉さんは優しい人だ。
色々と心が落ち着かないことになっているのに、こうして優しさをくれる。不甲斐ない私を。
紺炉さんは、ずっと待っててくれてていたのに。

彼の優しさに、少し甘えていたのかもしれない。そう思った。
でも、彼がしてくれた口付けには恋仲である私に対しての表現だったのかもしれない。
ただ、私の感情に付き合ってくれたのではない。

私だって、覚悟を決めなければならないんだって幾度も自問自答をしていたのに。
決まりきれなかった私が恥ずかしい。

ごちゃごちゃした心境ではあるが、これだけは表明しないといけないと私の中で騒いだから。



「お願い、です‥。こちらを向かないで、ください‥‥。」



気づけば、お互い背中を向けていたのが体を傾けた。
背を向けて眠る紺炉さんに、そっと背中に触れる。

布が擦れることで気づいたかもしれない。
既に眠っているようにと祈るように、掻き消すようにか細い声で告げた。
多分、このまま顔を見られたらこんなことができないと思った。

私に何をあげられる?
私は彼に何をしてあげられる?

何度も何度も自問自答したが、結局答えはでなかった。
それでも、私は募り募った想いを告げなければならないと気づく。


それほどまでに恋焦がれ、それほどまでに愛していたから。
つまるところ、私には優しい彼に告げるだけなのだ。



「紺炉さん‥‥。私は、‥あなたを‥愛してます‥‥。」



煩くなった鼓動を誤魔化すようにぎゅっと抱きつく。
告げた後はどうなったかは、その晩の月のみぞ知る。





恋慕の結末は月のみぞ知る
(どうか、この時だけはこの想いを知られないように)
(知られるかはどうかは、また別のはなし)