嫌悪する匂いと煙に包まれ日常は続く

ふわりと慣れないにおいが先に察知する。
慣れないタバコのにおいが日常を塗り替える。



「なぁ、リン。」
「‥‥なんですか。」



秘密基地で男はボクの名前を呼ぶ。
少しため息をついて視線を向ければ髪をすりっと撫でて、引き寄せようとする。

その動作に何をするかおおよそ察しがつけば、あからさまに距離をとる。
すれば男・ジョーカーは掴み損ねた手を遊ばせながら視線を向けた。



「なんで逃げんだよ。」
「タバコくさいのにキスしてこないで。」



そう。理由はひとつ。
ボク自身がタバコの味が嫌いだから。

それなのにこの男はヘビースモーカーなのか、いつまでたってもタバコのにおいが落ちない。
すん、と苦手なにおいが鼻腔を擽れば怪訝そうな顔を向けた。



「ボク、タバコのにおい嫌いなんです。」
「ツレねェこと言うなよ。お前が寂しそうな顔してたからだろ?」

「っ!してない、からっ、離れ、んっ?!」



寂しい顔なんてはした覚えはないと反論すれば、襟元を掴まれては無理やり口付けされる。
離れようとしてもにやにやと笑っては後頭部をぐっと押される。

離れようとすればするほど押し込まれで舌をからめとられてはあの苦手な味で顔を歪ませる。
その歪む顔すらも愛しいと言わんばかりに何度も啄むような口付けをする。

やっと満足して離れたときには、少し涙目になっていた。



「んー!!ふ、ふぅ、んう‥‥!!」
「っは‥‥、相変わらず下手だな。」

「こんなこと上手くなったって嬉しくない!」



涙目になった目をぐっと拭っては早々に新しい酸素を取り込むように呼吸する。
まだタバコのにおいがするが、さっき濃度の高いタバコのにおいを吸い込まされたのだから薄めるにはちょうど良い。

それにも関わらず、相変わらず余裕な顔をして新しいタバコに火をつける。
ジリジリと燃えるフィルターにあのにおいを纏わせて。



「今度勝手にやったら舌ごと噛んでやる。」
「そりゃおっかないな?」



タバコの煙で笑顔を象れば、また距離を縮めてくる。
気付けばフィルターをやくにおいと煙に包まれていたが、腕を掴まれて耳打ちする。



「その時は、逆らえねェように教育してやるよ。」
「っ!誰が受けるか。この変態。」



面白そうに笑う男にしかるべき報いをしたいけども、別に殺してやりたい訳じゃない。
これがいつもの会話で、いつもの日常。





嫌悪する匂いと煙に包まれ日常は続く
(ほんっとうにこのにおい駄目なんです!離れろ!)
(だったらリンの身体中に覚え込ませるしかねェな?)
(っ!うっさい!離れろっ)