人は誰しも隙を見せることはある。
油断しきっているなら尚更だが、例外は存在する。
だが、その例外すらひっくり返すものもいる。
外はざあざあ雨が、地面を一面にたたく。
そんなときこそ、外に出たかった。
だが流石に以前のように尻を揉まれ、ついには身ぐるみ剥がされかけたことを思い出せばそうもいかない。
己は己自身で守り抜くと幾度目かの誓いを立て、今日もまた秘密基地で時間を過ごす。
「なぁ、リン。」
「なんですか。」
秘密基地で雨の音を遠くで聞きながら読書に勤しんでいたにも関わらず、ずしっと背中に重心がかかる。
この男・ジョーカーはある意味では恩人ではあるが全てを許したわけではない。
以前のセクハラ未遂の件があって以来、隙を見せてはいけないと学習したから。
本人曰く尻が好みらしいが、大きめの服を好むボクにその好みは一切見せる気はない。
例えどんな気の迷いでも、魔が差したとしても、この男の好みには合わせず寄り添いもしない。
別の意味で危険すぎる。
「暇だ、構えよ。」
「イヤです。」
隙を見せないと内心で誓ったばかりだというのに、それを無視するように告げる。
好きなように構ってやったら最後だって、知っているくせに。
ボクの素っ気ない返事に少し残念そうにするくせに、ニヤニヤと笑ってるんだもの。
この状態でも、楽しんでいるってことは十分に知る。
「冷たいなァ?折角お前で遊んでやろうとしたのによ?」
「いや、そういわれて『わかった、付き合う!』ってなると思わないよね。フツー。」
当たり前なことでしょ、といってぱらりとまた読みかけの本に目を通す。
こういうときは無になれるので好きではある。
雨に打たれるときも同じ感覚なのでとても好き。
だからあくまで意識は本の活字に向けている。
目の前にいる男は二の次である。
「お前はそれで付き合ってくれると思ったんだが?」
「いやー‥‥それはないわ。ボクだってそんな暇じゃないんで。」
読みかけだから邪魔しないでくれ。
といいかけたときに、ひょいと手元の本の重さがふわりと軽くなる。
なぜかって、それは本を奪われたからである。目の前の男に。
今いいところだったのに。
返せ、と言おうとすると栞を挟んでいない本をパタリと閉じてこちらを再度みる。
ばちり、と紫水晶の眼が合った。
「仕方ねェからお前で遊ぶか。」
「人の話聞いてました?付き合うわけ、ない、って‥、」
ぽいっと本を手放したかと思いきや、そのままソファにもろともダイブする。
反応しようにも押さえられたままで押し倒される形となった。
目の前にはこう仕向けた張本人の男。
じぃ、っと紫水晶の眼がこちらを見据える。
ここで反応してしまっては相手の思う壺だと、冷静な頭に切り替えては告げる。
「‥‥‥ねぇ、顔近い。離れて。」
「相変わらずお綺麗なカオしてんな?リンは。」
「え、っと‥‥‥それは、褒めてる、んだよね?」
「そりゃあな?」
すす、と日の当たらない白い手がボクの頬を撫でる。
その手に震えたが、慌てることなく見上げる。
というか、この男の答えはボクのお願いになっていない。
そうため息もつきたくなるが、女性として容姿を褒めているのなら悪い気はしない。
例え、セクハラ未遂の男であっても。
(黙ってれば普通に容姿は整ってる側なのに‥‥勿体無いな。)
あまり言われ慣れてないため目を丸くしてしまった。
‥‥だが、今はそうではない。
そんな思考は置いておいて、再度質問をぶつける。
「‥‥‥‥で、なんで顔近づけてんの?」
「お前の顔はみてて飽きねぇからな?」
ニヤリと笑って、更に顔を近づけたかと思いきや、低く甘い声が耳元を擽る。
恋人の関係ならば甘い関係を想像させるがあいにくとそうではない。
甘い関係なんて投げ捨てたかのようなその内容に、思わず意識を冷めた。
「喰いたくなった。」
「‥‥‥は??!」
貞操の危機再び。
するりと服の隙間から腰に指が這わされれば、益々危険を感じては体をよじる。
しかし長身の男はニタニタと嬉しそうに笑って、衣類を剥ぎ取る手だとすぐに気付く。
それをさせまいと必死に阻止する。未遂を確定のものにしてはならないと。
「っ、ば、ばかっ!離れろって!」
「決めた。今から味見させろよ。」
甘さもへったくれもないその言葉に青筋を立て、ふざけんな!と声高々に叫ぶ。
そのまま、貞操防衛戦が再び始まったのは言うまでもない。
遠く雨音より開戦が鳴り響く
(このセクハラ野郎!女に餓えてるなら他を当たれ!)
(普通の女じゃ俺を満足させられる訳ねぇだろ?お前だからいいんだ。)
(それは然るべき事をしてから‥‥って、脱がすな!!)