別に、仕返しとかそんなことしたかったわけではなくて。
ただ、どんな反応するかな‥って思っただけでして。
本日のお仕事が終われば、住まいとなった詰所に戻ると愛しい人の姿が見える。
安堵すると仕事でテキパキと動いていた糸がぷつんと切れた。
「はー‥‥、今日は疲れた‥‥。」
「お疲れだな、陽。」
今日は張り切ってたな?とあなたはいう。
そうなんですよ。今日はいつも以上に働いたし何より動いた。
今日は甘味の新作ができたため、配達も店のなかも大盛況。
配達も多く重なっていたのも相まって、ひっきりなしに働き詰めていた。
やっと解放されたときにはよろよろだ。
癒しが欲しい。疲れが飛ぶようなものが恋しくなる。
「珍しいな。お前さんがそういうなんてな。」
「仕事が忙しいのは嬉しいんですけどね。でも今日は疲れたよ‥‥。」
『なにかいるか?』と訊くと『お茶が欲しいです。』と返した。
こういうときの甲斐甲斐しさは本来なら私が発揮するのにな‥‥何て思う。
ちゃんと恋人やれてるのかな‥‥ってたまにだが不安に思う。
忙しいのは嬉しいことではあるが、ここ最近休みがとれてなかったのもあり、どっと疲れが今まで以上に増して感じた。
一息はつけるが、まだ落ち着くまではしばらく忙しいだろうと思うと軽く息をついた。
二人っきりで過ごせる時間が足りないのも仕方ないが、仕事が楽しいためにどちらもと言うわけにはいかない。
そのモヤモヤを晴らしたかった。
紺炉さんが淹れてくれたお茶をずず、っと飲むとじんわりと体が温まる。
ほっとはするが、もう一声欲しかった。
「そういえば、抱き締められると人って癒されるらしいですよ。‥‥なんて、」
ふと冗談で笑いながらいう。根拠なんてもちろんない。
ただ、前に甘えたいときにでも言ったらどう?といった口実で言われたのを何となく口にした。
動機はそれだけだったのだが。彼はなにも困ることなく、迷うことなく。
「それなら御安いご用だ。 」
「えっ?」
そういうと、直後に腕を伸ばしては引き寄せられた。
胸元に押し寄せられては、ぎゅっと力強く抱き締められる。
とくんとくん、と鼓動が肌を通じて伝わるが、今はそんな状態ではない。
まさか、半分冗談でいったつもりだったのに本当に実行するなんて思いもしなかったから。
逞しい胸板に、何度抱き締められただろうか。
それも今回は不意打ちだったから尚更で。
少しは慣れたかな、って思っていたが甘かった。
この密着は未だに慣れない。
「‥‥で?少しは癒されたか‥‥って、訊かなくてもわかるか。」
俯いた顔を、紺炉さんは軽く頬に手を当てては見上げるようにする。
そのときの顔は疲れの表情ではなく、真っ赤に熱が集まった顔になる。
すっかり耳まで赤くなっていたのに気付いたのか、耳にかかる髪を優しくかけ直す。
「お前さんのその真っ赤な顔見りゃ、十分か。」
にやり、と少し余裕そうな表情になにも言えない。
本当に冗談でいったつもりだったのに、その冗談を真に受けて実行されてしまっては。
別に困らせたいとか、そういうわけでもなかったのに。
御安いご用だといってやってのける。
冗談のつもりだったのに、すぐ実行する辺り迷いが無さすぎていけない。
癒されたか?いいえ。顔を真っ赤にして疲れなんて吹っ飛びました。
清々しいほどに迷いがなくていけない
(あ、あの‥‥紺炉さん?‥‥楽しんで、ます?)
(そう見えたか?俺ァお前さんが笑ってくれればそれでよかったんだが?)
(‥‥もう、勝ち目ないな‥‥。)