誰かのために生きている、といえればよかったけども。
生憎とそういった綺麗ごとはなかった。
ボクのいる世界ではボク自身の概念がない。
なかったものにされている誰かの影。
更にその影から外れたのだったらもはや人ですらない。
死人であるがために、誰かの英雄にもなれない。
そう、誰かの手を取ることなんてできない。
「お前はさ、何で生きることを選んだ?」
唐突な質問に目を丸くする。
男は煙を吸い込んではふぅ、と紫煙が燻らせる。
薄暗い部屋にふわりと浮かぶ煙は人の形を作ったが、やがて溶けて消えていった。
「生きる‥‥?だって、ボク死人ですよ。」
「だが、今もこうやって息をしているじゃねぇか。」
本当の死人ってのは、息をすることも会話することもできないだぜ?と男は笑って告げる。
言われてみれば、何で生きているんだろう。
ふと考えてみるも、何も出てこなかった。
それはそうだ。今のボク自身には生きる意味を失っていたままだから。
「そう、ね‥。」
すぅ、っと軽く瞳を閉じて考え込む。
自身は歯車のまま朽ちることを運命づけられたはずなのに、それを己の意思で拒んだ。
生き延びる理由だって、本当はただの復讐とかそういったつもりだった。
生きる糧を復讐にしたのに、その意味をなくした。
もうその復讐の刃を向ける相手はもうこの世界にはいない。
バラバラとなって肉塊と果てた瞬間を目撃して、刃を向けるものはいなくなったことを思い知る。
ボクの生きる目的はその時から無くしていたのに。
何でこうして息をしているのだろう。
「考えたこともなかった。ボクはどこかで終わりを求めているのかもね。」
投げやりに『でも星の滅亡に巻き込まれるのは御免かな』と笑って返す。
どこかで終わりを迎えたかった、というのは本心だと思う。
自らを偽り続けたから、真実と虚実の境目がよくわからなくなっていた。
生きる意味も目的もなくしたのに、何で息をしているのだろうか。
そう考えると、足元がひゅっと重くなる。
そこから段々と呼吸するのがつらくなっていく。酸素を取り入れるのすら苦労する。
自ら生きようとする意志を拒絶しているからだろうか。そうだと思うと段々と酸素が薄くなる。
こんなに苦しむなら、跡形もなくなってもよかったのに。
だったら、誰かに終わりを告げてほしい。ボク自身に向けてくれる死神を待っているのかもしれない。
「だったら、貰っても構わねェよな?」
「‥‥‥何を?」
「お前の命だよ。」
ニィ、と不気味にその男は煙で髑髏をかたどって笑った。
その言葉、その表情にひどく安堵した。あぁ、ボクにはお誂え向きの死神はいたようだ。
「‥‥‥あー。うん、いいよ。奪うなり好きにして。」
すんなりと、頷く。この提案を受けるのは自分の中でも意外だった。
まぁ、多少腹立たしいがジョーカーにだったら殺されてもいいかなと思った。
ボクの生きる糧を奪った男に殺される、というのも中々おかしい。
そうであっても、あんなに鮮やかに殺してくれるなら苦しい痛いと思うこともないまま逝けるだろうと思った。
そう思考を変えれば、存外悪くなかった。
段々と距離を詰められ、トンと心臓の位置にカードが当たる。
あいつと同じ殺され方というのも不本意ではあるが、これは死へのカウントダウンってことか。
それなら、さっさとやってくれ。
軽くきゅっと目を反射的に瞑ればそのまま押されたまま倒れこむ。
倒れこんだ先は、ベッドではあったが。
‥‥‥ん?
「!なに、して…っ!??」
少し目を開けると何故か押し倒されたような結果になり、そのままおもむろに口付ける。
余りにも唐突で脈絡のない。
それに思わず反論しようと腕を動かすも腕を取られては、頭の上に縫い付けられる。
隙を狙ったように、唇を抉じ開けて舌をねじ込んできた。
唐突な結果に思考も真っ白になる。
「!?ふ、ぅ‥‥‥んんっ!!!」
気づけば、息苦しさから解放されるために唇を開いては舌同士が絡み合う。
こんな濃厚な口づけに訳が分からなくて、少しばかり涙目になった。
ようやく口づけから解放されれば、唾液同士が繋がる糸が伸びて繋がる。
それをジョーカーは軽く舌なめずりしては巻き取った。
一連の光景に、酷く色香を感じてしまったことは内緒である。
顔の熱がじわっと熱くなり、浅い呼吸を繰り返しながら睨み付けた。
「はぁ‥‥っ、なに、‥ベッドを血で汚す前に口づけって‥‥どんな趣味よ。」
「おいおい、俺は一度も“殺してやる”なんて言ってねぇぜ?」
鼻で笑ってジョーカーはそう告げた。
いや、この流れだと普通は殺し合いとかでしょう。今回は一方的な殺害依頼に似たようなものだけど。
それなのに、ベッドに押し倒された挙句キスってどういうことよ。
「‥‥‥じゃあ、どういう意味?」
「俺のモンになれってことだ。」
「はぁあっ!??」
何でそういう結果になるのか本当にわからない。
確かに奪うなり好きにしていいとはいったけど、こういうことながら全く話は別である。
そういっても後の祭りだったのは言うまでもなく。
抗うことをやめなかったら男は心底楽しんでいた。
傷つく夜を抱えて生きることを選んでしまったからには、責任を取らなければならない。
それが、例え。どんな結末であろうとも。
傷つく夜を抱いて死人は夢をみる
(いくら何でも、これはダメに決まってるでしょ!)
(リンが素直になるなら手取り足取り優しくしてやるぜ?)
(絶対言うか!)