この男の眼は苦手だった。
かつての悪夢とは違う視線に、震えた。
ふと、冷静に考え直す。
なぜこうなったのか皆目見当がつかない。
シャワーを浴び終えては部屋に戻ろうとすると声をかけられ、振り向けばベッドに押し倒されていた。
別に何事もなく、過ごしていたのになぜこうなった。
だがその思考を読み取るように男・ジョーカーは馬乗りするボクを余所に肌を撫でた。
「なんで‥ってカオするなよ。今までお前を置いてやってただろ?」
「‥まぁ。といっても影から抜けたボクは死人ですし。」
「だったら‥‥置いてやるからには、それ相応のモンを貰うのは当然だろ?」
まぁ確かに。命は貰うもいってたからその答えは出していたんだけも。
でも見返りを求めるなんて、珍しい一面を見たと思えた。
考えとは裏腹に、ボク自身の予想より上回っていた。
確かに地下から出たい一心でそんなこと考えもなかった。
むしろ、この男に性欲なんてものは存在してたのか。そっちに驚いた。
(あー‥‥でも、度々脱がされたりしたから多少はあるのか。)
ここで争ったところで、いつものコロシアイになるだろうし、さっさと終わらせてくれるならそれに越したことはない。
‥‥ボク自身、吐き気がする思い出しかないが、そうだと切り替えてしまえばどうということでもない。
そう思うとびっくりするほどに冷静になってはろくに抵抗もせずにした。
「‥‥随分冷めてんな。」
「当たり前‥。」
ジョーカーは少し意外そうな顔をしてそう告げた。
それを冷めきった返答でそっけなく返す。
これから行われるであろう行為には、嫌悪するものであり、ろくな思い出がない。
地下でどれだけ酷い目に遭わされたことかを思えば、その時のように流せば気にはしない。
だが、このまま好き勝手されるのも癪にさわるので、顔を反らし反抗の意識を真っ直ぐ示す。
それにも関わらずニヤニヤと笑って耳元で囁いた。
「お前、今まで古巣にいたんだろ?とっくに調教済みかと思ったぜ。」
突然の言葉を色気を孕ませて囁く。
その声はまさに猛毒で、ぞわりと悪寒を感じて思わず声をあげた。
そう。ボク自身は清らかなんてものではない。
かつての世界で欲の捌け口として扱われる日々だ。
そこから逃れたと思ったが、まさかここでも聞かされるのか。
ちらつく悪夢に眉を動かし、吐き気がする、と告げては身体を起こそうとした。
‥が、それは見事に阻止されては腕を頭上にまとめられる。
「まぁいい。ンな思い出ごと忘れるほど蕩けさせてやるよ。」
ジョーカーはそう言ってすす、と腰に手が伸びてはなぞられる。
だぼっとした服で誤魔化しているものの、ゆるい服装なため服越しに撫でられる。
気持ち悪いといった感想しかなかったが、身体を反転され、うつ伏せにさせられると、お気に入りだと思われる場所をおもむろに揉みしだいた。
「っ!ど、どこ触って!?」
「尻。」
「んなことわかって、‥っ!」
ボクが聞きたいのはそうではない。
さっさと剥いで出すものを出して終わらせてほしいのに、その気配がないことだ。
尻だけでなく、首筋、肩、鎖骨にも指や舌が這わされてじっとり撫でられる。
まるでそれは行為をするための前戯とも言えるだろう。
その行動が少し信じられなかった。
まともな扱いをされたことがなく、捌け口として扱われた経験しかないボクには理解できなかった。
こんなことをされたことがないためにどう処理していいかわからず、口を閉じた。
「反応が悪いな‥もう少しやるか?」
「っ‥‥これ以上、触るなっ!」
「今更カマトトぶるなよ。」
にやりと笑みを浮かべ、再度反転されては天井が見える。
そうわかるも、ぐいっと大きめのシャツを胸上まで捲り上げられる。
女性らしいシルエットにしてはやや細身だけども、ずっと地下育ちらしく白い肌をよりによって晒されてしまう。
押し倒されたままでは体も満足に動かすことができず、もがいていると首筋にがぶりと噛みつかれた。
ちりっとした鋭い痛みに顔を歪ませた。
「い…ッ!?」
「あまり暴れるなよ。優しくして欲しいなら尚更な?」
低く甘い声が脳を犯す。
声を抑えようにもこの状況でまともな思考にならない。
優しくなんてしないで。嫌悪する行為を早く終わらせて、と願ったのにこの男はそんなことは一切しない。
真逆な行為に経験がなかったボク自身にとってはどうひたらいいかわからなかった。
にたり、と笑ってまた囁く。
「お前の価値観を俺に塗り替えてやるよ。」
毒を孕む声に身体が振るえた。
ボク自身をどうこうさせるつもりなんてなかったのだが、目の前の男にとってはその都合はどうでもよいものであると知らされる。
陵辱されて穢された身体を塗り替えると言い出した男は、モノを見るような目ではない。
至極愉悦を感じたように嗤っていた。
悦に歪む眼は心を塗り潰す
(貧相な身体をだな?リン。)
(うっさい!余計なお世話。ガッカリしたのならやめたら?)
(いや?益々楽しみ甲斐があるってもんだぜ?)