素知らぬ顔して告げる罪の名は


まるで真実を隠したがる悪い癖。
それに名をつけるとすれば、どんな罪の名だろうか。



ボク自身はこの男に対しては、好きか嫌いかといえばどちらでもない。
どちらかに振るなら、やや嫌い。だった。

ボク自身にとっては『好き』の感情が、何もかも度外視して起きることは決してなかったからだ。

恋愛以前に感情についてはあまり出さず、
例外で『許さない。』『コロス。』と真っ先にあったのはまた別の話。


そんなボクであったが、ふと、魔が差した思考だった。
じぃ、っと代わり映えしない男のバンダナの下に見える黒い髪。
長髪で、漆黒の黒で、何より‥‥‥状態がよい。

それに比べ、手入れなどできなかったボクの髪。
ボクだって、一応女であるんだけど。



「‥‥‥‥‥解せない。」
「何がだ?」



思わず声に出てしまったのを拾われてしまい、黒髪の男がボクに声をかける。
言わないままでもいいかとは思ったが、ふと魔が差したならそれで返してみよう。

普段こういったことに関しては口を出さないボクが、いってみたらどんな反応をするのか少し気になったから。
さも、流れるように、問いかけた。

わりと、どうでもよいと捉えるかもしれないが。



「何でそんなに髪サラサラなんですか。」



髪?とジョーカーは問いかけたが、己の黒髪を指先で触れる。
キューティクルといい、癖ひとつない綺麗なストレートといい、女性なら羨む代物だろう。

それに加えて、ボク自身は女性の身ながら髪は伸ばさない。
ボクの髪質も癖はそんなにないが、あの闇の中で身を潜めていたために手入れなどとてもできない。
手入れをするのが億劫になり、さらには女扱いしない世界に身を置いていたからと女を捨てるつもりで髪をバッサリ切っていた。

項は隠れるが、首の付け根は晒さている。
世界が違えば女らしい格好もして生活していただろうが、そんな甘いところではなかった。



「折角だから伸ばしてみりゃいいだろ?」
「いや、ボクが伸ばしたところで可愛くはないし。
むしろ、ボクに『可愛い』は似合わないでしょ。」



ため息混じりに言うボクの話。
それをふぅ、とタバコを咥え直しては火をつけて訊く男。
火がついたタバコはじりじりと先端が燃えては、煙がじわじわと広がってる。
やがて煙を楽しむように吸い込んではふぅ、と息を吐く。

紫煙を燻らせながら、まじまじと男はこちらを凝視する。
全身を見るようにしてまるで品定めするような素振りをして少し考える。


『可愛いは似合わない。』と発言したことで気にでも留めたのだろうか。
ジョーカーが勝手に想像したところで、伸ばすつもりも可愛くするつもりもない。
話を終えようとしたが、ジョーカーはこちらに距離を詰める。

意外な言葉を残して。



「俺はそう思わねェけどな?」
「‥‥‥っ、え?」



どういう意味かと聞こうとしたが、じりじり距離を詰められる。

気付いて咄嗟に離れようとしたが気付けば壁に追い込まれた。
タン、と手を伸ばして壁に固定される。


また煙が燻らす。
身長の差もあって思わず見上げれば、男はニヤリと笑う。


‥‥イヤな予感がする。離れなくては。
そう警告したが時既に遅く、顎をあげられてはそのまま唇を奪われる。

煙の苦い味に顔を歪ませて逃げようとするが、壁を背にしては逃げられない。
身体を押そうにもびくともしなくてはそのまま唇を好きにされる。

タバコの苦い味に思わず涙目になる。
ぷは、と唇が離されては泣きそうになるボクを見てにやにやと笑っていた。
(くそ‥‥これだから、この男は少し嫌いなんだ。)

また距離を更に縮めてきた、思わず強く目をつぶれば耳元で低い声がかすっていく。



「お前はいつも俺の下で可愛く啼いているだろ。
髪を振り乱してリンが俺を求める様はとてもそそるけどな?」
「ーーーーーーっ!!!」



目を瞑ってしまったために、耳に意識が集中してはより強く取り入れてしまった。
その色気を孕む声の魔力、とでもいえばいいか。

毒が強すぎて、訳がわからなくなっていた。
くたっと力が抜ければ、再度顎を持ち上げられては紫水晶の瞳が再び視界に入る。



「ななな、な、なに、を‥‥!!」
「俺しか知らねェ顔をもっと見せてみろよ。リン。」



耳元で妖しく囁く猛毒に身体がビリっと痺れる。
これだからこの男はズルいんだ。

素知らぬ顔して近づいて、気を許したら全てが最後だというのに。
隙間を狙われては見事については堕とされる。
本当に、この男は大罪人である。





素知らぬ顔して告げる罪の名は
(ほんっとうに最低。)
(何がだ?)
(質問はぐらかした上にこんなことすることだよ!)