夕暮時の想いは如何にして捧ぐのか

酷いくらいまでに優しいあなたに、私は何を捧げられる?
見ているだけの私に、何ができるんだろうか。


今日も綺麗な夕焼けが広がる浅草の町。
もうじきこの日の終わりを告げるために傾く太陽の下、ガラガラと詰所の戸を開ける。



「御免ください。お届け物です。相模屋のダンナ。」
「ん?陽か。」



戸を開けるとすぐお出迎えして挨拶を交わすといたのは、想い人。
最早配達も日課となっていたが、こうして会えると自然と笑みがこぼれる。

早速向こう側からとてとてと軽快な音が聞こえる。
ひょこっと顔を覗かせて可愛らしい声がすると微笑んで手を振る。



「おい陽。今日の菓子はどんなだ?」
「ちゃんと出来てるか見てやるからな!」

「双子ちゃんこんにちは。今日はお団子持ってきたよ。」



詰めた風呂敷ごと渡すと、にやりと笑みを浮かべて早速手に取った。

配達とは別にお裾分け、という名目でお手製のお菓子を渡すようになった。
出来たもの大体は双子ちゃんが味見してくれて、判定をもらうのが日課となりつつある。
(容赦がないくらいに良し悪しハッキリ言ってくれてるので、採点結果をもとに改良を重ねる機会はとても良い。)



「いつも悪いな、陽。今度は酒に合うやつを作ってくれ。」
「お酒に合うやつ、かぁ……。紅のダンナ好みなら、甘さ控えめの方がいいよね。」



お酒のお供、と聞いてすぐに誰宛の注文かは分かった。
こちらはちゃんとしたおーだーなので、注文の内容をメモをしっかりと書き記しては懐へとしまった。



「じゃあ、私そろそろ行きますね…ッ!わわ…!」
「おっと、大丈夫か?」



ぐらり、と一瞬視界が揺らぐ。
その際に重心のバランスをうっかり崩し、転びそうになるところに背中に腕が当たりちゃんと支えてくれる。
ありがとう、と一言だけいって微笑む。



「あ、はい。ちょっとした立ち眩みです。大丈夫で……ッ!」



だが体勢を立て直すその際、足首に違和感を感じた。
いや、違和感と言うより、軽い痛みが走る。



「おい、どうした。」
「あ、いや……ちょっと捻ったみたいです。でも歩けないほどではないですし、お気になさらずに。」



ゆっくりと立ち上がって足をトントン、と軽く地面についてへにゃりと笑いかけた。
(あー、これはちょっとやっちゃってる。帰るとき大変かもな…。)

すると彼はすぐさまちょっと待ってろ、とだけ告げてその場を離れた。
いや、そろそろ帰るんですけど。

でも待ってろと言われてはその場で待っていると、遠くで話し声が聞こえる。
手当て、だの、送ってく、だの、聞こえた気がして………


………ん?なんて?


少し考え事をしていた間に、紺炉さんの手には治療箱一式。



「ほら、陽。」
「………え?」



ぐいっと腕を引かれては玄関に腰がける。
草鞋を抜かれ、足を見せろと否応なしに言われて触れられた。

私の足が彼によって触れられているとわかると、どうしても変に意識してしまい恥ずかしくなる。
咄嗟に『しなくて大丈夫。』と言おうとするも『良いから大人しくしてろ。』と一蹴。

なにも反論できず、大人しくされるがままだった。
そうこうしている間にアザが出来ていた足首を包帯でぐるぐるっと固定する。



「これでいいだろ。」
「あ、あの…………相模屋のダンナ?何を……。」

「陽。」



そう言うや否や、今度は彼は腰をおとしては背中をこちらに向ける。
………あぁ、これは。



「いやいやいや!私重いですから!!大丈夫で、」
「気にすんな。」



いや気にするって!!好意を寄せた相手に重いなんていわれたら私は立ち直れない。
(立ち直れなくて涙で部屋を濡らすに違いない!)

反論の言葉を遮られてつべこべ言わずに、っといった勢い。
(あーー。もうこれは、諦めで背負われろ、ってことですか。)


多分ここでやんややんや言い合いしたところで勝てそうもないため、
半ば諦めてお邪魔します、といって彼の背中に寄りかかる。

これも手慣れたように足を固定し、ひょいと持ち上げた。
(安定感抜群だけど、これはこれでちょっとした公開処刑!!)



「軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?」
「ッ!ちゃんと食べてます…っ。」



くすっと笑っては店まで送る、とだけ言い残して詰所を出た。

まさか寄り道のつもりが、おぶられて帰宅とは中々に予想外。町中を歩けば勿論注目はされる。
浅草のまだ日も落ちきっていない町中で、背負われて歩いてたら子供みたいじゃないかと思われるじゃないか。
(いや実際は年の差もあるんだろうけど。)

それが善意とは別の理由も重なってたら、尚更恥ずかしくなった。
(一応…恋人なんだけどな……。)


「相模屋のダンナは優しすぎますよ?」
「ん?そうかい。だがその足でお前さんが無理して悪化でもしたらそれこそ一大事だろ?」



いや、正論過ぎてぐうの音も言えないんですけど。でもそういうところが優しいんですよ。
(確かに変にひねった感じがするので、肩は貸してくれたら助かるとは思ってたけど!)



「それに、お前さんが怪我したのをそのままにしておけねェって思っただけだ。だから今日は素直に甘えておけ。」
「……ずるい、なぁ。」



そういうと、くつくつと背中越しで顔は見えないが笑っているのがなんとなくわかった。
大人の余裕、ってやつなんだろうか。

いつもひとつひとつにてんてこ舞いな私はものの見事に転がされているのがわかる。
それなのに、それなのに。不思議と彼の背中は心地よい。ぎゅっと肩に手をかけた。

彼に、何が私ができるのだろう。
その答えを出すのはまだ少し先の話である。





夕暮時の想いは如何にして捧ぐのか
(相模屋のダンナは………。)
(どうした、陽。)
(!い、いいえっ、何でもありません。)