今日は久々の非番。
与えられた自由は少ない時間ではあるが、過酷な仕事と日頃のストレスを発散するにはうってつけだ。
買い出しもしたいし、たまにはオシャレでもいい。
ウキウキして身嗜みもオフに切り替えして楽しい時間を満喫していた。
そう、本当なら満喫していたのだ。
「なんで、かな………。」
「なんで、とは。」
そりゃ、どうしてここにいることがバレたってことなのよ。
どう考えても偶然にしてはあり得ないでしょう。
(いや、そもそも仕事らしいことをしているとかこの人は…。)
男は相変わらず私を見つけるなり微笑んでさも親切そうにするが、私の前だけでは人の良さそうな貌は剥がれて本来の顔を見せる。
こと悪いことに関しては頭の回転が回るこの男に。
「はぁ。」
「どうかしましたか、セナさん。溜息なんてついて。」
「誰のせいよ。」
奇遇ですね、なんていけしゃあしゃあなこと言って絶対監視してたに違いない。
私が明らかに避けてることくらいは察してくれ。
(いや、察したとしても多分避けてはくれないだろう。)
楽しい時間が一瞬にして別れを告げられたのだ。
楽しくなんてとてもじゃないかそんな気分にすらならない。
そもそも……わからないのだ。
この男が何故こんなにも執着を見せるのか。
「わかりませんか?」
「!な、なにをいきなり……わかるわけありません!」
一瞬心を読まれたのかと思う程の相槌に思わずびっくりして目を開いてしまう。
それ程までにタイミングがあまりにも良かったから。
いや、そうではなくて毅然として挑まないとこの男を回避することはままならない。
あくまで、冷静に、だ。
「やれやれ…私は貴女のことを好いているというのに。」
「…………は?」
今、この男は何と言った?
この私を、好いてる、とでも言ったのか。
いや、黙っていれば顔はいいですよ?本当に。それは悔しいが多少は認める。
だが中身は最悪そのもので、タチの悪さも噛み合ってなおのこと最悪。
そんな男に、私は好かれているのか。
考えるだけでも恐ろしく首を振った。
たかが、いち個人でいち軍人だ。
特別な力なんて何も持たないただの一般人。
そんな私にどこにそんな要素があるとでも言うのだ。
「貴女は何もわかっていませんね。」
「なに、が……っ!!?」
だからいちいち心を読むような返答を返すでない!
もう迂闊に考えるのを放棄しそうになるでは無いか。
そんなこんな考えていると、手袋を外した彼の素肌が顎を伝う。
少し体温の低い指先が顎を捉えてゆっくりと目線を合わせる。
冷たい青の目が、ばちりと重なった。
「貴女の隅々までも愛しいというのに、当の本人が無自覚とはね。」
「……まさか、口説いています?」
「ええ。」
「………誰をですか。」
「貴女以外に誰が居ますか?」
あくまで淡々と疑問をぶつければ、さも当然といった具合に男は返答した。
何度も確認したが、この男は何も持たない私自身を好いていて、かつ、口説こうともしている。
危険な思考を持ち、かつ行動にも起こせる彼は対象的な私を選んだ。
理由は不明。真意も不明。
まったくもって理解する努力を手放したくなる。
顎に滑る指がやがて唇にも触れて、朱のリップがつうっと指でなぞって少し擦れた。
少し伸びてしまった朱が彼の指先に付着する。
ちろりと態とらしく舌を覗かせて、耳元で掠れるように囁く言葉に。
私自身は狙われたのだと再認識してしまって身体にまた電気が走った。
「跳ねっ返りがあっても、真っ直ぐに私を見る姿勢……気に入りましたよ。」
「…………え?」
いや、気に入らないでください。頼みますから。
いやいや、こんな危険人物に標的にされたら逃げ場なくなるじゃないですか。
(いっそのこと、軍を抜ければ逃して……いや、ないな。)
するりと髪を撫でるように指先で取ってはニタリと笑みを浮かべた。
グッバイ平穏、ウェルカム危険
(この後、お時間がおありでしたらお付き合い致しますよ。)
(結構です!!)